魑魅魍魎、それが江戸 ページ9
「あららら、痣になっちゃってんじゃん」
あの後、呆然とするAを連れてスナックに一声かけた銀時は万事屋へと運び込み、ソファに座らせた。
これくらいしか出せねーけど、とコップに入った水を手渡すと、少女は途端に喉が乾きを思い出したかのようにぐびぐびと水を飲み干す。その間に救急箱を取り出し、見せてみと優しく手を取った。
袖を捲ると、がっちり男の手形が付いており、いかに強力だったかを物語っている。
爪が食いこんだのか、少しだけ傷跡ができていたために消毒液で湿らせて絆創膏を貼り、包帯を巻いた。
「うし、こんなもんだろ」
「ありがとうございます……」
「あんなんがいっつもいんだよ。ま、今日はタイミング悪かったな」
「あんなの、って……」
「ああいう……なんていうの、クスリと酒間違っちまうようなヤツ。目ェ虚ろで、誰彼構わず襲っちまうようなヤツがよ」
ぞく、と背筋が凍る。
あのまま誰も来なかったら、自分はどうなっていただろうか。
それなりに心得はあるものの、いざと言う時ほど身体は動かないものだ。それを、まだ秒針が回りきって程ない最中に味わった。
江戸は魑魅魍魎だよ、とおどけて笑った先輩も、こんな体験をしたのだろうか。
「帰るか? 田舎に」
はっとして見ると、救急箱を片付けて仕舞う銀時の横顔が映る。
生半可な気持ちで来たのは重々承知している。ただの出稼ぎと思われてもおかしくない。実際そうではあるが、本質は別のところにある。
江戸は色んなものかある。人がいる。駿河には無いものが、いっぱいあるんだ。
見ておいで。出稼ぎとしては悪くない条件だし、俺が案内状書いたげるから。
そう笑って、筆を走らせてくれた。
多分、話に上がらなかったら、上京など考えなかっただろう。
ずっと働いて、弟妹たちを養って、成人式を迎えさせてあげて。
自分の視野のことなんて、考えたことも無かったのだ。
いい人ばかりじゃない。悪い人だっている。そのことを、江戸は教えてくれた。
天人に明け渡しちまっても、失くしてないものはあるもんさ。
自分がいかに狭いところにいたかを知らされた気がした。
どれほど生温く、居心地がいい場所にいたかを解らせてやると、言われたような。
ハローワークでお登勢が拾ってくれなかったら、自分は吉原に居たのかもしれない。
全く知らない土地で生きていく無謀さを、知った。
「帰りません、まだ」
仕送りの金もしてないのに、来た意味なくなっちゃう。
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柏餅(プロフ) - 神すぎますゥゥゥ😭 (4月7日 21時) (レス) @page50 id: 55951e8f98 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 原作を守りつつ良い感じにキャラと関わる位置にいる感じ!言いたいこと分かりますかね? (2021年7月31日 19時) (レス) id: 44294a6bf9 (このIDを非表示/違反報告)
わか - こういう設定好きです!!キャラとのほどよい距離感というか、食堂で働いてます!とか、保健室の先生です!とか、 (2021年7月31日 19時) (レス) id: 44294a6bf9 (このIDを非表示/違反報告)
ユユユ - めちゃくちゃ面白いです!続き楽しみにしてます!無理せず頑張って下さい! (2021年2月7日 12時) (レス) id: 2ebf8b6b93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年1月29日 17時