今度は私の番だから ページ23
「…………えっと、」
モネの意図が汲み取れず、なぜか見つめ合ったまま、ひたすらに時間が過ぎる。
夜に2人きり、男女が見つめ合ってはいるが、その字面通りのロマンティックさは、欠片も無い。
「…………」
先に視線を逸らしたのは、モネだった。
迷いなく、ヴァイオリンを手に取った。
奏でるのは当然、あの曲。
相変わらずの美しい音。
しかし、耳が聞こえにくいせいか、少しつたない。
「…………すみません」
「なぜ謝るのですか」
「こうして、ヴァイオリンを弾けて、それをエイト先生に聴いていただけて。していることは、以前と同じです」
「…………でも、耳、やっぱり不自由ですよね?」
否定はできない。
実際、耳が聞こえにくいので、楽譜通りの音を出せても、芯が通っていなかったり、ビブラートが歪んでいるような状態。
アクドル時代から、耳は命。
こんな経験は初めてで、モネ自身も、対応に悩んでいた。
「気にする程のものではありません。お陰様で、治りは早いですし」
「………………そうですか、」
やはり、エイトの表情は暗いまま。
モネは、その理由をある程度察してはいるものの、何を言えばいいのか、よくわからなかった。
「以前、おっしゃいましたね」
「え、」
「私がここにいる理由に、エイト先生へヴァイオリンを聴かせる為ではだめか、と。」
「…………あぁ、」
手に持つヴァイオリンを、そっと撫でる。
「それは、たとえ私が聴覚を失っても、変わらないのでしょう? …………少なくとも私は、そう思いましたが」
「それはっ、、もちろん、」
「ギャラリーが情けない顔をしないでください」
つい先日まで、慰められる側にいたモネに、他悪魔の慰め方などわからない。
それゆえ、少しピシャリとした物言いになってしまった。
エイトにも、その必死さは伝わったらしい。
「……すみません」
「ですから、なぜ謝るのですか」
「…………気を遣わせてしまって、」
それはそうだけど。
「…………それはともかくとして。理由もはっきりさせないまま、謝られても、不快ですし迷惑です。
……それとも何ですか。エイト先生は、私に『お前のせいだ』とでも言われて欲しいのですか?」
…………見ていられない。
こんなエイト先生、知らない。
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作者名:Sela | 作成日時:2023年3月26日 23時