楽器より心配なの ページ22
「…………今宵も、月が綺麗ですね」
「そうですね」
今日の音楽室では、煙草を吸うことはできない。
心臓破りで、校舎がちょっと壊れている上、楽器たちは、準備室に避難させられていなかった。
楽器たちや、譜面台などの備品は、当然、理事長特製の保護魔術が施されており、傷一つ無い。
保護魔術はかなり万能のようで、実際は、楽器の目の前で煙草を吸っても、なんの問題もないのである。
単に、モネの気持ちの問題。
が、ヒビだらけの校舎だと、煙草を吸うのは、なんとなくだが気は引けた。
「…………大丈夫ですか」
「え? 別に怪我はしていないですよ? むしろモネ先生の方こそ、耳の調子は大丈夫ですか?」
「ブルシェンコ先生のお陰で、なんとか」
後ほど判明したのだが、最後に受けた、ポロの渾身の音に、モネの耳は崩壊寸前だった。
ならば、なぜ会話できていたのか?
…………多分、気合い。
ポロの襲来や、ジャズのチームの単独生存に対して、脳をいつも以上にフル稼働させていたせいか、いわゆる、火事場の馬鹿力状態に陥っていた、と考えられる。
が、音楽教師としては、致命的。
アトリ捕獲の為に動いたモネは、むしろ感謝されるべき立場にいたのだが、真っ青になったブルシェンコには、逆に頭を下げた。
かなりの回復スピードではある。
しかし、それはあくまで、何もしなかった時と比べた場合である。
まだ、耳は聞こえづらい。
「…………煙草、吸いますか」
「……えっ?! いや、楽器が、」
「そんな顔して、楽器の心配するんですか、エイト先生」
「……えっ、」
耳が聞こえにくいので、口を見て会話しようと試みているモネと、エイトの視線がぶつかった。
直後、エイトの瞳が揺れる。
「……いや、楽器は大切でしょう。モネ先生がどれほど丁寧に扱っているか、よく通っているのでわかりますよ」
「別に、楽器が大切ではないと、申し上げている訳ではないです。ただ、重なったので」
「…………重なった?」
ーー私に、
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作者名:Sela | 作成日時:2023年3月26日 23時