5 ページ5
:
右手はまだ掴まれたままだけど指摘すればすぐに離されてしまいそうで気づかない振りをする。
お互い会話もせずにひたすら田舎道を歩いていたけど沈黙は北人くんによって破られた。
｢あのさ...Aさんなんで今日こんな時間まで残ってたの?｣
｢え?あぁ、えっと...｣
さっきまではなんて言おうかちゃんと考えていたはずなのにいざ本人を目の前にすると言葉が詰まる。
だけど今日くらい素直になってもいいよね？
ずっと見ているだけの恋は終わりにするんだ。
｢一緒に....帰りたくて。｣
少し声が震えたけど辺りが暗いことに救われる。北人くんの顔が見えないから大胆な事も言えた。
｢えっ!｣
北人くんはあからさまに驚いて大きな声を出した。
不思議と暗闇でもどんな表情で驚いているか分かる。
｢一緒に帰りたくて かぁ。｣
何故か噛み締めるように私の言葉を繰り返すから恥ずかしくなってきた。
すると急に
｢俺も、Aさんと一緒に帰ってみたかった。｣
そう言って北人くんは振り返って微笑んだ。
北人くんを見つめることができなかったのが嘘みたいに今は目が離せなくなる。
これは夢?現実?
あの北人くんが私と一緒に帰りたい？
顔に熱が集まってるのは鏡を見なくたって分かった。
なにか言わなきゃって思ったのに、
結局北人くんの言葉に赤面するばかりで何も返事ができないうちに駅に到着してしまった。
｢じゃあ、気をつけて!｣
｢うん、ありがとう。｣
この短時間に色々起こりすぎて頭が追いつかないけど、北人くんがせっかく嬉しいことを言ってくれたのに何も言えなかった事への後悔だけが残った。
｢あのさ!｣
再び北人くんの声がして振り返る。
｢また一緒に帰ってもいいかな?｣
その一言ですぐに私の心のモヤモヤが晴れる。
北人くんはそれだけ言い残して足早に帰ってしまったけど、私はしばらくその場から動けなくなった。
期待しちゃうよ?北人くん。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mm | 作成日時：2020年3月11日 13時
