23枚目 ページ24
お姉ちゃん、と笑顔で振り返る彼女。
彼女はいつも麦わら帽子をかぶっていた。
養子として迎えられた私は、とても厳しく育てられた。
その家は代々音楽系の職に就いており、母はオペラ歌手で父はピアニストだった。
だから私も音楽からは逃れられなかった。
私がヴァイオリンを人並みに扱えるようになった頃、待望の赤ちゃんが産まれた。
可愛くて、まるでひまわりのような子だった。
けれども、彼女が産まれてから私への厳しさは増して行った。
なぜなら、妹には音楽の才能が全くなかったからだ。
成長し、私はプロの音楽家として名を馳せ始めた。
と同時に心のダムが決壊、自分に対して自信が持てなくなった。
親からの期待と世界の期待、変わらぬ厳しさと妹の面倒、たくさんのことが私にのしかかった。
それが原因で脳に異常が出てしまい、私の記憶能力を司る部分が壊れた。
笑うことすら忘れてしまった私の、唯一の花は妹だった。
私の変わりと言わんばかりに笑顔を振りまき、常に私の前を歩いていた。
彼女のそばに居ると、不思議と私も笑顔になれた。
妹は周りから「能無し」と言われていた。
音楽の才能も何も無かったからだ。
だけども、彼女は麦わら帽子をぎゅっと握って笑い続けた。
私には妹が羨ましく見えた。
才能がないことがむしろ普通に見えて、特別に思えたからだ。
そんな妹は、わずか10歳という年齢でこの世を去った。
脳の血管が詰まり、破裂した。
彼女の麦わら帽子と笑顔は、炎とともに焼かれて消えた。
そして後を追うように、私も脳の病気でこの世に別れを告げた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 294人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
華ヶ崎レオ(プロフ) - みなさん» ありがとうございます！楽器の部分は何気頭ひねりました… (2019年12月17日 0時) (
レス) id: a8b7c32919 (このIDを非表示/違反報告)
みな - 楽器の描写最高ですね！！ものすごく共感しました！！！話も面白いです！！ (2019年12月15日 0時) (レス) id: fe16bb43ec (このIDを非表示/違反報告)
華ヶ崎レオ(プロフ) - はすちゃん?さん» 見つけて下さりありがとうございます。こんなにも褒めていただいて光栄でございます。これからも精進して参ります！ (2019年8月31日 20時) (レス) id: a8b7c32919 (このIDを非表示/違反報告)
はすちゃん?(プロフ) - 今日見つけて最終話まで見ました。この作品は本当に面白くて、何度も読みたいと思う作品で、すごくストーリーの中に引き寄せられます。最後の最後まで面白さがあり終わり方もとても良かったです。また、キャラ達の感情もわかりやすく書いていたのでスラスラ読めました。 (2019年8月31日 19時) (レス) id: 8e54247537 (このIDを非表示/違反報告)
華ヶ崎レオ(プロフ) - rikaさん» 心が折れそうになっても、貴方様の様な読者様がいるかもしれないと思うと自然と更新ページに進んで更新できました。ほんのに皆様のおかげと言っても過言ではありません… そしてこのような暖かいお言葉も大変励みになります。ほんとうにありがとうございます。 (2019年8月21日 7時) (レス) id: a8b7c32919 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：華ヶ崎レオ
| 作成日時：2019年4月23日 5時
