【天王()】表裏一体な毎日【短編集】

君に意欲があるならば ページ30

「どうして僕を助けてくれたの…？レイブンクローの落ちこぼれだって、自覚はあるよ…。僕以外にもあいつらにいじめられてる奴はいるし…」
「ここに居るのが自分じゃなくてもいいんじゃないかってことね？」

　つかの言葉に、獣道はこくりと頷いた。
「あのね」と目をつり上げかけたつかを「どうどう」と抑え、兄貴が「俺らはな、けもさんの絵を見たんやで」と言った。

「絵を…？」
「せや」

　頷く兄貴。

「目立つ魔法は使っとらんかったけど、あちこちに魔力が散りばめられた、心にグッと来る絵やった。あんな凄い絵を描く美術家が、迫害なんてされてええ訳ないやろ」


◆ ◆ ◆ ◆


　それから、数ヶ月が経った。
　レイブンクローの談話室はいつも通り生徒たちの話し声で賑わっている。談話室はホグワーツ城の塔のひとつにあり、広々とした円形の部屋である。入るにはブロンズ色のワシの形をしたドアノッカーが出す問題に答えなければならない。知性が問われるものだが、逆に言えば問題に答えられる知性があれば誰でも入れるようになっている。

「ちょっとー軍曹？！それ私のカエルチョコなんですけど！」
「あ？猫犬お前いつ来た？ここやったら絶対バレへんと思ったのに」
「今来たよ〜！やっほー！いやー今日の問題はちょっと難しかったね、うんうん。さぁ軍曹、そのチョコを返すんだ」

　その談話室に置かれたソファに座り、両手をチョコでべたべたにした白髪に黄色い瞳の魔法使い――軍曹。
　もう一人、青い髪をうしろで結び、黄緑の瞳を細めた魔法使い――猫犬が周りをうろちょろしながらチョコに一生懸命手を伸ばしている。

「これは私のおやつなんで」
「ちょっと！！！」
「君ら、どっちもレイブンクローじゃない客人なんだからちょっとは静かにしなよ」
「げ」
「げげ」

　少し低めの、芯のある少年の声。
　軍曹と猫犬は「やっちまった」とばかりに肩をすくめ、しかし口元は笑ったまま二人で声の方に振り向いた。猫犬はひらひらと片手を上げる。

「やっほー…けもさん」

　二人の視線の先には、青と黄色のグラデーションがかかった髪をきっちりと整えた少年がいた。困ったように眉を下げ両手を腰に当てており、ただ口元だけは二人と同じように楽しそうに開いている。

「けもさん聞いて！軍曹が私のお菓子勝手に取ってったの。あの！カエルチョコ！」

　ビシッと軍曹を指差す猫犬。軍曹はけろりとした顔でチョコを口に含んだ。

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