【天王()】表裏一体な毎日【短編集】

【NG編】早く行け ページ17

高層ビルの向かいの横断歩道。信号の色はなかなか変わらない。第五裏天王()栗花落はスマホをいじる手を止め、眩しそうに正面のビルを見上げた。

「はー…。じのさんまじで連絡つかん。うりさんのデータ欲しいのに」

「栗ちゃん嫌われてるんじゃない？」

「あ？吉田殺す」

　犬の耳を揺らしながらくすくすと笑う第二裏天王()吉田。栗花落は彼女をじろりと睨みつけ、肩にかけたかばんのチャックを下ろした。
　中から覗くは、栗色のトゲトゲがついた球体と柄となる棍棒が鉄の鎖で繋がった得物ーーいわゆるフレイル型のモーニングスター。

「栗ちゃん、吉田にだけ殺意高スギィ！」

　無言でそれを取り出す栗花落にも物怖じしない吉田。にやにやと笑い続ける。

「へいへーい。今ここでそれ振り回してみせろよ。じのさんが『アジト周辺でバレるようなことするな』って言ってたの忘れたんならな」

「…くそが」

「くそじゃないです吉田です〜」

「くそ吉田」

「変わってないんですけど〜！」

　と、吉田が叫ぶと同時に信号が青に変わる。
　彼女に返事をすることもせず、ツカツカと歩き出す栗花落。
「待ってよ！」と吉田はそのあとを追った。栗花落は相変わらずビルを見上げている。

「栗ちゃん？」

「何か俺らの階っぽいとこ、窓から紙とか色々飛び出してきてるんだけど」

「え？……ほんとだ。何してんだろう」

「敵襲かもしれない」

「あ…うりさんが盗ってきたデータの…追手、とか…？」

「急ごう」

　横断歩道を走り、自動扉を抜け、栗花落はエレベーターのボタンを…ではなく隣の非常口の扉を開けた。

「えっ階段？」

　ぴょこん、と耳ごと首を傾ける吉田。

「敵襲かもしれないんでしょ？急がないと」

「殺せるもんなら殺してみろって、言ったのはそっちだろ」

　栗の仮面を横にずらし、にたり、と彼女は笑った。かばんはどこに捨ててきたのか、手にはモーニングスターのみ。棍棒を揺らすたび、鉄の鎖もじゃらじゃらと音を鳴らす。

「まず吉田を殺す」

「返り討ちにしてやるよ」

　対する吉田は両の拳を構えた。

「先にぶっ殺すか、上に着いたほうが勝ちってことで！」

「上等！」

　栗花落は邪悪な笑みを浮かべ、チェーンごとモーニングスターを回し始めた。

「俺が勝つ！」

「いや勝つのは吉田だね！」

　栗花落がモーニングスターを振り下ろしーー吉田は身をかがめて一歩を踏み出す。



　裏天王()最強の座を争う栗花落vs吉田、開幕。



END

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