照らすために息をしている (ページ36)

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35．やわらかなナイフページ36

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お店の前に着いて見覚えのある背の高い明るい髪色が店内に入っていくのが見えて、ここに来たことを心底後悔した。

久しぶりと挨拶と軽い会話を交わしながら
お店の中に入っていく人たちに言葉を返して見送り、

…ここで帰ってもバレないんじゃないかと考え出す。

「Aさ～ん！」

「しょせちゃん」

「Aさん来うへんかと思った〜」

「行くって連絡したじゃん」

へへへ、と笑うしょせちゃん。

一緒にマネージャーやってる時から可愛かったけど、変わらずに可愛い。

髪色がだいぶ明るくなっていて一瞬びっくりはしたけど、あの頃と変わらないままのふにゃふにゃしてる笑顔を見たら、さっきまで絶望感でいっぱいだった感情がふわふわと浮いてどこかに飛んでいくようだ。

しょせちゃんに見つかってしまったら今更帰るなんて言えない。

あの人とは話すこともないだろうし、まあいっか。

「Aさん、俺の隣な！」

「ええ～」

「なに、嫌なん？」

「すごく嬉しいでーす」

「全然思ってへんやん！」

カチンと音を立てて乾杯でぶつけたグラスに口をつけながら、懐かしいメンツを見渡す。

制服でもユニフォームでもない毎日共に過ごした仲間たちの姿はなんだか変な感じがする。

なかなかに人が多くて1番遠い席に座っているのに、

どうしても瑠姫の姿が目に入ってしまうから隣から聞こえてくる会話に意識が完全に向かない。

純喜くんと付き合ってからからインスタはミュートしたし連絡が来ることもなかったし、毎日幸せだったから完全に存在を忘れていた。

てかそもそも来るとは思わなかった。

大人数の集まりとか苦手で、試合の打ち上げとかも早めに帰ったりしてたのに。

何の心境の変化なんだろう。

まあ何にしても私には関係のないことだけど。

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