好き、嫌い、好き Ⅲ (ページ36)

今日:12 hit、昨日:24 hit、合計:239,523 hit

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完璧にとらえた当たりは、バックスクリーンへと消えていった。

走者3人が返り、俺もその本塁を踏んで4点目
平行線だった試合も、今の満塁ホームランにより目まぐるしく動いていく。

笑顔で迎えられハイタッチで返す。

慎「完璧やないですか～。彩登美さんアメリカ行って落ち込んでると思ったのに、」

「うるせ。落ち込んでねーよ」

最近、打撃の調子は悪かったが、今日はすこぶるいい。

今までにない感覚で、打てるボールが来たら、無意識に反応してバットが出る。

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慎「首位打者もすぐそこっすよ」

シーズン終盤
カープにマジックが点灯して、優勝はおそらく無理だろう。

でも、個人の成績として首位打者を狙える位置にはいた。

亀「前よりすっきりした顔してんじゃん」

「亀さんのおかげっすよ」

亀「そりゃどうも、」

グローブをぱしんっと一つたたいて、自分の定位置へと向かう。

どんな球でも来てみやがれ、そんな気持ちだった。

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試合を勝利で収め、ヒーローインタビューを終えてダグアウトへと下がる。

あの満塁ホームランだけでなく、もう一つホームランとタイムリーを打ち、6打点の活躍
今日の自分の仕事には満足だった。

ロッカーまでの廊下を歩いていると、ふわり、と

あの、忘れられない香りが、漂っていた気がした。

思わず、来た道を振り返る。

まさか、

彼女がここにいるわけなんてない。

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ロッカーへと戻ると、いつもより賑やかだった。

まあきっと、慎吾のおしゃべりが過ぎてるだけだろう、なんて思いながら

自分のロッカーに荷物を置く。

菅「あ、勇人さん」

話の輪に加わっていた智之が、俺の姿を見つけてこちらへ歩みを進めてきた。

「おう、お疲れ」

シャワーを浴びようと、身の回りの支度を進める。

菅「勇人さん、もしかして何も聞いてないんですか？」

「何もってなにが？」

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ロッカーを飛び出した。

間違いなんかじゃなかった。

いや、心のどこかでは期待してた。

間違えるわけない。

忘れるわけない、忘れられるわけ。

“今日の試合、Aさん見に来てたらしいですよ？”

“ついさっきまで、ロッカーに挨拶に来てくれてたんですから”

きっと彼女は、俺がインタビューでいないのを知っていたから。

律儀な彼女は、ちゃんとみんなに別れの挨拶をしに来たんだ。

すぐそこにいる彼女を

手の掴める場所にいる彼女を

離すもんか。

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