好き、嫌い、好き Ⅲ (ページ21)

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ーガシャンッ、パリンッ

健「‥あーあ、やっちまった」

手から滑り落ちたステムグラスは、

見事に粉々

(結構高いのに、)

確かどこかに小さなホウキがあったはず。

と、裏側へ入ろうとしたところ、店のドアが開いた。

健「勇人さん、いらっしゃいませ」

「ジントニック」

健「畏まりました。あ、少しお待ちいただけますか？グラス、落として」

「急いでへんからええよ」

いつも大人の余裕が感じられる勇人さん

Aとは180度違う人種

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健「どうぞ。サービスのチーズです」

「お、サンキュー」

店内に入ってきたときの雰囲気から、
どことなくいつもと違ってるのには気付いてたけど

「うん、美味しい」

健「何かありました？」

って、聞きたくなるくらい

表情は浮かなかった。

「やっぱバーテンは違うね」

どことなく困ったように微笑んだ。

健「お客様の雰囲気や表情で、お酒を提供することもありますから」

「じゃあ、今の俺を表現するようなお酒作ってや」

健「分かりました」

強く、繊細で、脆い

だけどやっぱり、強い

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健「どうぞ」

勇人さんは、グラスに匂いを嗅ぐように顔を近づけた。

「何の香り？上に浮いとるやつも気になる」

健「上に浮いてるのはペッパーです。香りもそれからです。」

「ペッパー？」

怪訝そうに眉を歪めた。

健「この透明のお酒は、度数はそれほど強くないんです。このままでも美味しいんですけど、アレンジでペッパーとかスパイスをいれると味がしまって美味しいんですよ」

「‥へえ、」

勇人さんは、説明を聞いてそれを一口のんだ。

「ん、うま‥」

そう呟いて、続けてもう一口。

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「で、これはどういうイメージなん？」

健「最初に思い浮かんだのは透明です。私の勇人さんのイメージは、強い、脆い、強いです」

パッと見強そうに見えて

実は中が繊細で、

でもいざとなるとやっぱり、芯があって。

何やねんそれ、って勇人さんが優しく笑った。

健「落ち込むとか、らしくないんじゃないかと思って。いつも、前を向かれてるじゃないですか」

きっと勇人さんは、俺に話そうかどうか迷ってたんだと思う。

提供したお酒をのみ終わるまで、勇人さんは一言も話さなかった。

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