煌(3) ページ4
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そしてその日の帰り道、「思ったより凄かったねー」などとのほほんと語る友人の話など上の空で適当に相槌を打っていればついに指摘される。
「Aさっきからどうしたの?具合悪い?」
「あ、ううん…具合は、平気」
尚も眉間に皺を寄せている私の顔を覗き込んだ友人は訝しげに首を傾げて「余韻に浸り中?」と当たらずも遠からずな事を言う。
「あのさ、…ぼ、木兎先輩って」
「あぁ、あの三年の?噂には聞いてたけど、すっごいファン多かったね。今日周りにいた先輩たち全員そうだったと思わない?」
「…………やっぱりそうだよね」
「うん……え!?ちょっと、なんで泣きそうになってんの、」
緊張の糸が切れたように、あるいは張り詰めていた胸の内が解けるようにぶわっと滲む視界。
情けなくも友人から差し出されたティッシュを受け取って盛大に鼻をかみ、ギュッと唇を噛む。
「なんか……悔しいの、」
「悔しい?」
「他の人は全員木兎先輩を知ってて、木兎先輩もその人を知ってて」
でも私は今日初めて木兎先輩を知って、木兎先輩はまだ私を知らない。
そう実感するとなんだか無性に悔しくて、胸の奥の方がぎゅっと掴まれたように痛い。
独り言のように吐露した私の呟きを隣で聞いた友人は黙ったままじっとこちらを見据え、暫くして口を開く。
「………好きになっちゃったんだ」
「………、そう思う?」
「誰が聞いてもそう思う。でも珍しいね、Aがああいうタイプ好きになるの」
中学からの友人の彼女はこれまでを思い返すように顎に手をやり視線を宙へ向けている。珍しい、という言葉に同意するように頷く。
そうだ。ああいう誰が見ても人気者で自分に100%勝算がない相手に時間と気持ちを割くことを私はこれまでしてこなかった。意図してないつもりだったそれは、今日をもって意図的にそういう人をそういう括りに入れないようにしていたのだと悟る。
だって今、すごく虚しい。とうとうやってしまった、という思いがじわりと広がっている。
勝ち目のない勝負はしたくない。自分が虚しくなるだけだから。でも感情に自制は効かないのだからどうしようもない。
好きになってしまったのだから、仕方がない。
どうせどうこうなれるはずも無いのだから、これからは彼の出る試合は毎回応援に行って、彼が卒業するまで良いファンでい続けてやろうじゃないかと私は半ばヤケクソで息巻いた。
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みんみん(プロフ) - ゆららさんのお話、とても大好きです!楽しくってキュンとしながら読ませて頂きました!! (4月18日 9時) (レス) @page47 id: 708a20f575 (このIDを非表示/違反報告)
ルイ - 木兎さん最強でした……普段コメントしませんが、思わず感想をお伝えしたくなりました…!めちゃくちゃキュンとしました!! (2022年7月22日 2時) (レス) @page47 id: 448a7aaf1d (このIDを非表示/違反報告)
rry - ハイキューをテーマにした3作品読ませていただきました!全部最高で星10です! (2021年11月14日 22時) (レス) id: 7243f08c85 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらら(プロフ) - 天羽さん» 天羽様初めまして!何度も読み返して頂き光栄です…!完結までもう暫くお付き合い頂ければ幸いです!コメントありがとうございました( ´ ` *) (2021年8月17日 12時) (レス) id: 4397bbbd69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらら(プロフ) - 紅月。さん» 紅月様はじめまして!糖分増し増しで頑張っていきますのでこれからもご贔屓にお願いします( ´ ` *)コメントありがとうございました! (2021年8月17日 12時) (レス) id: 4397bbbd69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆらら | 作成日時:2021年7月10日 20時