11話 ページ11
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降参、と白旗を上げて再び隣に座り直した私を満足気に見やる鬱くん。まるで子供扱いなその顔に腹が立ったけども、彼が何を言わんとしているのかわからない今、仕方がない。
大人しく言葉の通り『待ってや』を律儀に守った私は、「それで？」と掴まれた手の理由を尋ねる。
ちなみにその手は未だ掴まれたままで、何気なく解こうとそっと引いてみるも、何故かがっちりガードされたままビクともしなかった。
「逃げよ思っとるやろ」
解こうとした手に目ざとく気づいていたらしい鬱くんは、ムッとした表情でその手に力を込める。そろそろ血が止まりそう。
その間にも私の頭は疑問符が溢れかえっていて、触れたままの手から伝わる体温に酷く居心地が悪い。
「……もう、なに？」
なかなか本題に入ろうとしない鬱くんに痺れを切らしてそう言った。引き止めるだけ引き止めておいて、『やっぱなんもあれへん』なんて鬱くんなら言いかねないけれど、今回もその類いだったのだろうか。
にしても随分引っ張るなぁ、と手首に感じる体温でその理由を探ってみれば、鬱くんはムッとした表情を崩さないままに私を見ていた。
何その顔、と文句を言おうと口を開きかけた私を遮るように、鬱くんは呟く。
「A、俺ん事見捨てる気やろ」
「………、見捨てる？」
「勝手に彼氏作って俺と離れよ思っとんやろ。ひどいわー」
俺路頭に迷うやん、と白々しいことを言う鬱くん。一瞬で様々な言いたいことが頭を駆け巡ったものの、いの一番に突っ込みたいことはただひとつ。
「……私に彼氏できたらどうするつもり？」
「そりゃまぁ、他の女探すよな」
「はい最悪、解散」
聞いた私が馬鹿でした、と今度こそ手を振りほどいて立ち上がった。少しでも心配したのが間違いだった。
他にアテなんかいくらでもあることなど、私が1番知ってるくせに。
「待ってや、冗談やって」
ごめん、と背中に投げかけられた声はまたしても私の手を掴む。
そっと丁寧な手つきで鬱くんが掴んだのは手首じゃなく、紛うことなく手だった。
ムカつく、ムカつく。
モヤっと広がるこの気持ちを見透かしているかのような優しい声色と優しい手つきに、私はすっかり怒る気力など奪われた。寧ろいとも簡単に奪い取られたことに逆にムカついていた。
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赤月セレン(プロフ) - コメント失礼します。物凄くお話にのめり込んで一気に読んでしまいました…とても良くてもう好きです（笑）tnさんの方の小説も楽しみに読ませて頂きますね。素敵なお話をありがとうございます、更新お疲れ様でした。 (2021年3月6日 22時) (
レス) id: f86cb701a2 (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - ずきゅん (2020年8月28日 1時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
おいちこ(プロフ) - 完結おめでとうございます＆ありがとうございますっ！！凄い、素敵でした...2人が幸せに結ばれて、私も幸せですぅ...ニヤニヤ止まんなかったですぅ...新作も読ませていただきますぅぅ...!!!!更新、頑張ってください！！ (2020年4月25日 13時) (レス) id: 5a28085a2a (このIDを非表示/違反報告)
やち(プロフ) - 完結おめでとうございます！生活感のある日常に散りばめられたもどかしさと時々挿まれるドキッとする描写のバランスがたまらず、更新のたびにとても楽しく読ませていただきました。ゆららさんのsyp君がまた素敵で転がるほど好きでした…！次回作も楽しみにしています！ (2020年4月25日 6時) (レス) id: 6f58a85157 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - かげでこそこそと見させて頂いておりました。なんとも言えない大人のもどかしさがまた純愛のようなものが感じられてとても良い作品でした。完結おめでとうございます。 (2020年4月25日 2時) (レス) id: bbf23e1c65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆらら
| 作成日時：2020年3月22日 1時
