第一章 【影は光を喰らう】 ページ10
[九ノ月・十五日 一九時ごろ]
夢乃を追いかけるべく森の中に入っていったが、流石は『迷いの森林』と呼ばれるだけある。もう夢乃の姿が見えなくなり、方向感覚が失われていく。夢乃の服装は全体的に赤い色だから、迷いの森林の中じゃ目立つと思ったがそうでもないらしい。
「参ったな……道に迷ったぞ」
いや、そもそも俺は夢乃を追いかけて来たわけであり目的地がない。夢乃を見失った訳だから“迷った”もなにもないんだよな。
「それにしても、この森に住んでいる身だが夕方ってここまで暗くなったっけか……?」
「おやおやおや。こんな暗い森の中に一人でどちらまで?」
知らない人物の声に、腰に携える魔剣に手を伸ばす。その警戒ぶりに声をかけて来た人物は木の上から降りてくる。
「あぁ、すまないね。驚かせるつもりじゃなかったんだ」
「誰だお前。妖怪か?」
「いかにも。
僕は墨俣ユウト、くらやみ目の妖怪さ」
【『墨俣 ユウト(すのまた ゆうと)』
町の東側に位置する『迷いの森林』は、その名の通り入ってきた者の方向感覚を奪い、森の中を彷徨わせるほどの深い森である。故に妖怪たちの住処となっている。
彼もまた迷いの森林の住人である。人を襲うのが妖怪の生きがいであるが、彼は珍しく人間を襲うことがない。しかし、注意するべきは彼の能力である。
彼の能力『光を遮断する』能力は、対象の目から届く光を全て遮断するものであり、自身が手に持っていた松明の火でさえ見えなくなるほど。この能力を自身に掛けることでくらやみ目の弱点である日の光を遮断し、昼間でも問題なく視界を保てるのだ。
(理想年紀 第三巻
「妖怪一覧」より引用) 】
「その妖怪が、俺に何の用?」
「『迷いの森林に入ってきた人間は見逃すな』。ここの妖怪たちの暗黙の了解さ」
「俺はこの森に住んでる身だぜ?見逃してくれよ」
「僕だって君の様な強い人間と相対したくない。見なかったことにして君が彷徨い歩くさまを見守っていたいとすら思う」
「“彷徨い歩く”って……。
あ、そうだ。お前、夢乃見なかったか?赤い服装で、目つき鋭くて、近寄りがたい様な奴なんだけど」
「あぁ、そういえば見たな。花坂家三十五代目だろう?」
「見たのか?」
俺の問いに相手はゆっくりと頷く。しかし、おもむろに取り出した結界札を地面に落とせば、結界札が発動して俺と相手を飲み込んだ。
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作者名:ミンミンゼミ31039 | 作成日時:2018年12月8日 22時