終章【日常の帰還】 ページ39
[九ノ月・十六日 十二時ごろ]
「───と、コレが事の顛末さ」
翌日、9の月16日。迷いの森林の空き地に陣取った家屋『月城事務所』で新たな友人に昨日の冒険譚を話していた。その友人こと墨俣ユウトは「へぇ」と言ったのちにお茶を飲む。
「不気味な行方不明事件は魔界を統べていた竜人族の女帝が引き起こしたもので、動機は家族の蘇生。全ての原因は竜魔戦争にあった訳だ。やっぱり戦争って良い事が無いもんなんだなぁ」
「僕たち理想の都の住人たちが、種族間でのいざこざが戦争に発展しないのも、きっとそういう結果が目に見えているからなんじゃないかなって僕は思うんだ」
「成る程。戦争ってそもそも、動機として挙げられるものに何があるんだ?」
ユウトは腕を組み、「そうだね……」と考えを巡らせる。
「素人意見で申し訳ないんだけど、戦争する事で領地は勿論のこと、国家が有力になりやすくなるとかかなぁ。
竜魔戦争を例にすると、竜人族と魔族のいざこざから始まった戦争だ。戦争を起こせばどちらかの陣営が相手の領地を合法的に占領することができる。魔界の事を全て知っている訳じゃないけど、魔界では魔族が一番多い種族なんだっけ。という事は『数が多すぎた』んじゃないかなぁ」
「人が多すぎれば場所を取り合う事になって、その分身内で争い合う。そんな無駄な事をするより多種族の領地をぶんどって、ついでに捕まえちまおうぜ!……ってことか?」
「多分?僕は政治ごとには興味なくってね、こういうのは本人に聞いた方が良くない?」
「その本人は今花坂の屋敷で呑気に粗茶でも飲んでるんだろうよ……。俺、夢乃に追い返されたし」
「あらら」
同時刻。花坂家の屋敷。伝統的な日本家屋の縁側で一人緑茶を嗜む。
が、その平穏は客人の登場であっけなく壊される。アップルが上空からゆっくりと降りてきて、夢乃の隣に腰掛ける。
「……で、なんの様?」
「有意義な話でもしようかと」
「昨日まで悪事を働かせた首謀者に提供できる話題なんてそうそう無いわよ?」
「構やしないさ。私も、君に敗れてからなんだか吹っ切れてね。あの時の私はきっと、藁にも縋りたかったんだ」
アップルが指を鳴らすと、何処からともなく召使のルナディが姿を現し、右手にポッドを、左手にティーカップを持って優雅に紅茶を注ぐ。
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作者名:ミンミンゼミ31039 | 作成日時:2018年12月8日 22時