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カラ松1-壱 ページ2

『誰』

ぐちゃりと歪んだ字が書かれていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

もういやだ。
こんな家、大嫌いだ。
何が血統だ。何が名誉だ!
そんな物いらない。いるもんか。
いつも俺に押し付けてばっかりで、人の気持ちなんか考えない奴ら、大っ嫌いだ!!!

感情に任せて、ぐしゃぐしゃと足元の葉を潰しながら、走り抜ける。
一歩進むごとに、呼吸が乱れる、足元がぐらつく、視界が歪む。
なんで日頃から運動しておかなかったんだ、と後悔が脳内に浮かぶ。
残り僅かな体力は限界に達し、体がべちゃりと倒れこむ。
毛足の長い絨毯でも、清潔なシーツの上とも違う、不思議な感覚だ。

「…あと、何分だろうな、」

教師に必死に頼み込んだ休憩時間も、残り僅かだ。服を汚してしまったから、帰ったら皆に激怒されるだろう。
あとどのくらい、あの家から出られるのだろうか。あとどれくらい、決まりから抜け出せるのだろうか。あと何分間、怒られないで済むのだろうか。
あと何年間、生きなければいけないのだろうか。

死にたい、わけじゃない。
死ぬのは、いけない事だ。だから、死なない。

「…この後、なんだったかな、歴史と、経済学と、ダンスと、…ははっ」

母さんの説教も追加だ、と呟く。

日が暮れて来て、音が少なくなってくる。
時間はもう過ぎただろう、重い腰を上げる。
(どの道、走ってきたかな…)
立ち上がり、くるりと辺りを見回す。

何か、音がした。

がさり、がさりと木々を掻き分ける音。
森の動物だとしたら、危険だ。逃げるべきだが、
(動物に、背を向けてはいけない)
何かで読んだ気がする。
考えている間も、音は少しずつ大きくなっている。近づいてきている、ここに。

ゆっくりと、後退する。
目線を音の発生源に合わせ、ゆっくりと。

黒い影が、木々の隙間から現れる。
大きさは、自分と同じくらいだ。
顔の辺りが白く、体の辺りは少し緑がかった黒で、足元は人の肌のような色をして…

「……人?」

一瞬、理解が遅れる。
この森は、何故か誰も近寄らない事は、調べてある、のだが…?

彼、彼だと思う。
彼は、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

「…町の、人か?」

対話を試みる事にした。
一歩、近づく。

俯いていた彼の手が、ばっとこちらに飛んできた。

「!?」

顔を、掠った。殴られた…!?
いや、違う。何か、握られている。
受け取る。

「…紙…?」

丸まった紙を開く。

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作者名:ねむ氏 | 作成日時:2017年9月20日 21時

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