また君の隣にいたい【Fischer’s】

音楽 ページ10

Aさんが普段あまり観ないって言うカードゲームとかの動画を俺達が手話と筆談で教えながら観てる。


次はどの動画にしようかと画面をスクロールしてるAさんの手が止まった。そして迷ったように彼女が指差したのは“虹”のMVのサムネ。



［ねぇ、変な事聞いてもいい？］
「？モトキ、Aさんなんて？」
「変な事聞いてもいい？って」
「変な事？」
［音楽ってどういうものなの？］



Aさんは先天的に全聾だから、音楽そのものを知らない。だからそんな彼女に音楽がどういうものか、教えるのは難しい。


どうしよう。なんて説明すればいいんだ。俺達にとって音楽以前に音が当たり前だから、Aさんにも分かるように……どう答えるのが正解なんだろう。



「もっきゅん？」
「どした？Aさんなんて言ったんだ？」
「……音楽ってどういうもの？って」



俺が悩んでた理由もメンバー皆分かったらしい。それぞれ悩み出した。答えを探してるのが分かったのか、Aさんは慌てて無理に答えなくていいって伝えてくれた。


でも俺はちゃんと伝えたい。彼女の分からない事は教えてあげたい。だって知ってほしいじゃん、俺と出逢う前に知る事がなかった事とか、縁がなかった事とか。


筆談用のスケッチブックを手に取って俺が思う“音楽”を書く。



《音楽ってさ、音を楽しむって書くじゃん？確かにその通りだけど、でもそれだけじゃないと思うんだ。自分の好きな音楽を聴いて困難を乗り越えられたり、やる気が出たり、絶望から立ち直ったり。そういう力があるのが音楽だと俺は思うよ》



Aさんは俺が書いた文を読んでから、目を細めて笑った。これが正解だなんて思わないけど、これが俺の思う音楽。伝わったみたいで安心した。



「なるほど」
「いい事言うじゃんモトキ」
「あ、Aさん音源は聞こえないけど歌詞は分かるじゃん。虹の歌詞教えてあげる！この曲俺が作詞作曲したんだよ！」
《ンダホ君が？凄いね！》
「ねぇ、リズムも何とか教えられないかな」
「いいね、歌詞教えた後にリズムも合わせてみよ！」



Fischer'sの歌担当の2人が張り切ってAさんに虹の歌詞を教え始めた。2人にもAさんに俺達の曲を知ってほしいって気持ちがあるみたい。



「お前は混ざらんくていいの」
「いいよ、歌に関してはあの2人の方が適任だろ？」
「あの2人ってAさんの事好きだよなぁ」
「俺の方が好きだし」
「いや好きの意味が違うだろ」
「だとしても！」

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