俺、横尾さんになっちゃった！

【08】 ページ8

個人での撮影を終え次の出番まで少し時間があるのを確認すると、
俺はそっと本殿の裏へと回り、丁度良い加減の日陰にある石段の上に腰掛けた。

目を瞑り意識を集中する。


(横尾さん)


横尾さんはきっとこの身体の中にいる。
さっきの声で確信した俺は、とにかくコンタクトを取ろうと決めていた。
横尾さんなら、この状況の意味を何か知ってるかもしれない。

心の中で何度も名前を呼んでみる。









(ねぇ横尾さん、いるんでしょ？)


(ん…みつ？)


何度か目の問いかけにようやく返事があった。


(横尾さん！)


(あ…寝てたわ。)


(横尾さんたらまた呑気なこと言って…。なんで俺、横尾さんの中に居るの？)


(あれ？みつ憶えてないの？)




横尾さんが言うには…

元々偏頭痛持ちだけどここ何日か本当に酷くてまともに眠っていなかったらしい。
今日もどうにも辛いから薬を飲んで

(とにかくぐっすり眠りたい)

って考えながら仮眠していたら、夢の中に俺と神様が出てきて

『あなたの願いとこの者の願いが、全く同じタイミングで私に届けられた。
折角だから叶えてあげよう』

と言われ、とにかく寝たくて仕方なかったから後は任せてそのまま眠っていたんだと。



(時々ふっと意識が浮上することがあってね)


(あっ、時々『かわいい』って聞こえてたけど…あれ？)


(ふふっ、そう♪うるさかった？)


(いや…うるさくはないけど、『かわいい』って何？俺にそんな風に言ったことないじゃん)


(はははっ…本当はいつも思ってるよ。ただ口に出すと太輔に怒られるからさ(笑))


(藤ヶ谷に？)


(そう。あいつ独占欲強いんだよ(笑))


(え？)


(ああ…いや、こっちの話。その内分かるよ。じゃあ俺はまたしばらく眠るから、後はよろしく！)


(ちょっ、横尾さんっ)





.






.






「おい、渉」



「へっ？」



わっ！また藤ヶ谷だっ
やばやば…



「何でこんなとこに…まだ頭痛いの？」


「あっ、うん。まぁ…大丈夫」


「昼飯食べれそう？」



いつの間にか寝てたんだ…

でも横尾さんがちゃんといてくれることが分かって安心した。
ここんところ忙しくしてたみたいだし、しばらくゆっくり眠るといいよ。



「太輔」


「ん？」


「もう怒ってない？」


「んあ？さっきのことか。まあ…もういいよ」



何かを思い出したかのように、にやにやしながら口元を押さえている。



きっと何か良いことでもあったんだろうな…

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