離反を防ぎたいが故に夏油傑を洗脳してしまった。

９． ページ10

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千年以上前の呪術全盛期。脳家にはかの両面宿儺と渡り合った、“思考操術”の使い手である伝説の術師がいたそうな。

しかしその者は巨悪と戦う崇高な呪術師なんかではさらさら無く、むしろその巨悪と並ぶもう一人の最悪の呪詛師…つまるところもうひとつの巨悪であった。その者はただただ弱い者を疎み蔑み…虐殺を繰り返し続けた。

しかしある時、大量の術師の犠牲を伴いながらも、遂にその者を滅殺することが出来たのだ。そう、この殺されたという点においてがその者と両面宿儺との大きな違いだろう。


これが脳家においての屈辱の歴史の始まりだった。


そう、それはその者の死後のこと。
脳家にはもう二度とそのような残忍な人間が出てこぬよう、呪術界総出でとある呪いがかけられたのだ。


“これから先、脳家では非術師しか生まれてこない”


事実…そこから千年間、脳家の人間にはかろうじて呪いは見えるものの、一人たりとも術式を持つ物が生まれなかったそうだ。



しかし近年、脳家の古ぼけた屋根の下に轟いた大きな産声と共に事態は急変した。

そう、脳家に千年ぶりに術式を持つ子供が生まれたのだ。脳家の人間は大いに喜んだ。遂にこの時が来た。忌々しき呪術界に反旗を翻すときが。ただひたすらに高笑いが響き渡った。


ただしそこには一つの誤算があった。
その子らは───“双子の男女”だったのだ。


双子は凶兆、と言うが事実その通りだった。
せっかく千年ぶりに術式を持つ子供が生まれたと言うのに、彼らの術式は最盛期のそれよりも格段と弱かった。


具体的にどう弱いか。

思考操術の術式は大きく分けて２つ。
“呪霊への洗脳”と“人間への洗脳”だ。

そう、彼らは双子ゆえに腹の中でそれらを分け合ってしまった。つまり彼らはそれぞれその片方ずつしか使うことが出来なかったのだ。



そこで脳家の哀れな非術師共は考えた。

このままでは自分たちの名誉挽回の機が、忌々しき御三家・呪術界への復讐の機が…遠のいてしまう。
いや最悪の場合…その機は完全に消滅してしまうのではないか。


そう、奴らが双子である限り。


ではもし、
双子が双子じゃなくなったのならば。
どちらか片方だけになったのならば。
どちらか強い方だけを生き残らせたならば。


その術式は一つになり完成するのでないか？
我らの祈願は、最凶の術師の復活は達成されるのではないか？



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その双子が生まれて十年目の春。
再び脳家の非術師共の高笑いが響き渡った。



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