離反を防ぎたいが故に夏油傑を洗脳してしまった。

２． ページ3

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嗚呼、なんて馬鹿なんだろう。
そしてなんて愛おしいんだろう。

あの時、私が地獄へと追い詰められていた局面でも、君は悟の名前を呼んだ。



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ここは地図にも載っていないような片田舎の村。
その村に蔓延る猿共に迫害され暴言を吐かれる、ボロボロでカビ臭い牢屋に閉じ込められる二人の女の子。

酷く侮蔑した表情でそれらを見つめた君を私は外へと連れ出して、一緒にこの猿共を一匹残らず殺してしまおう、と誘った。Aは一瞬同様の色を見せたが、それ以降は怪訝そうな表情を変えることなく私の誘いを断った。
……本当は私以上にこの村の住人を殺してしまいたいと考えているくせに、そんなセリフは今だけ喉の奥にしまいこんだ。


『……強情だな。まぁいい。君は黙ってそこで見とけばいいさ。私がここでこの村の住人を皆殺しにするのを。』

『お願い傑…止まって！！
私は悟が悲しむ姿はもう見たくないの！』


彼女だって必死で自分がどれだけ酷なことを口走っているか自覚がなかったのだろう。
だしても、彼女がもし私の事を心から思って止めてくれたなら。取り繕ったものでもいいから私だけを必要としてくれる言葉を吐いて止めてくれたなら。私はその足を、手を、止めたかもしれない。

なのに君が吐いた言葉はあまりにもトンチンカンで的外れで…それでいて悟だけを思った言葉で。私は結局のところ君にとっては、悟を悲しませないためにいなくなって欲しくない“悟の身近な人間のうち一人”でしかなくて…私だけを君が必要とする、そんな事があるわけがなくて。

プツン、己の心の糸が切れた音が聞こえた気がして、それ以降私は彼女の制止の声の一切が聞こえなくなった。


私は考えた。ここで私がこの村の憎き非術師共を皆殺しにすればきっとAも上層部によって共犯扱いされることになるだろう。さすれば自ずとAは自分と共に地獄を彷徨う道を選ぶことになるはずだ、と。
ああ、最初からこうしておけばよかった。最初からこうしておけば…淡い期待を抱くことも、無駄に傷つくことも、これ以上悟に劣等感を抱くことも無かっただろうに。



しかしことは思わぬ展開へと進んでいく。
───Aの術式が覚醒したのだ。

彼女の術式は呪霊には効くが、人間相手には効かなかったはずだった。だから完全に油断していた。


“思考操術”──“改変”


そして私は───この日、君に呪い(洗脳)をかけられた。



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