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ラッキーなことにわりと空いていたそのお店は、ショーケースに色んな焼き菓子が並んでいて、真剣にたくさんのお菓子とにらめっこする横顔がやっぱり素敵だった。


日本語も英語も、どの形容詞であらわせばいいのかわからないくらいに。


｢ん〜…圭人これはんぶんこ｣

｢ふふ、OK。やまちゃんなら少し太ってもかわいいのに｣

｢なっ、バカうるせぇ！｣

｢いて｣


俺の腰あたりにワンパンを決めてから、"これとー、"って注文を店員さんに伝える首筋は赤かった。


｢なんか意外だね｣


やまちゃんが選んだのは、つやつやに輝くいちごたっぷりのタルトと、生クリームと梨のコンポートがこんもりのった焼きたてのパンケーキ。
それに、素朴なオールドファッション。


｢なにが？｣


"はんぶんこ"のパンケーキを俺にすすめながらオールドファッションを持ち上げた。


｢この2つはやまちゃんっぽいけど、それ｣

｢あー…なんかさ、優しくてほっこりすんじゃん。色々乗ってるのもいいけど、なんだかんだ結局こういのが魅力的なんだよ。つまりお前｣

｢は？｣

｢ドーナツの穴ってさ、なんであんのかわかんないじゃん。でもどうでもいい疑問じゃん。
つまりお前の考えてることと一緒｣

｢…はぁ｣


穴から片目で覗くと、フッと笑った。
照れ屋のくせに、結構頻繁にめっちゃ恥ずかしいこと言ってる自分に気づいてないよね。

そういうところがかわいくて好き。



実のところやまちゃんは、誰よりも早く来て誰よりも遅く帰るくらいにダンスを練習したり、
ご飯を食べるのも忘れて台本を読んだりするような努力家で。


自信がない圭人と自信が溢れるやまちゃんと、とっかえっこして欲しいなって昔は思ったけれど
そんな単純なことでは決してなかったんだ。


｢んーまい！これ一口食ってみ！？｣


ただどうしたって俺にはやまちゃんじゃなきゃだめで、ずっと隣にいたくて、
じゃあ俺だってもっともっと努力しなきゃって思わせてくれてありがとう。


｢圭人ってば！はやく！｣

｢ん、あーん｣

｢調子のんなっ｣


ぱくり、やまちゃんがくれた甘さを噛み締めながら思うよ。

俺には君、君には俺しかいないって。






《Shee.》

♪オールドファッション/backnumber

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