愛を知らない夏 ［Taiga］

フェイント ページ36

.


「ほんとだ」

ベランダから、こんな大きな花火が綺麗に見れるなんて、なんだか夢見てるみたいだった。





「ね、めっちゃきれい」と言う大我の、

花火が映ったキラキラの瞳と、その横顔に泣きたくなった。



「わあ、、すげえな、」




少年みたいな姿に見惚れてたせいで
「なんか暑くなってきたね」と言った彼とばっちり目があってしまった。


"ん？どした？"と片方の眉、片方の口角を上げたその顔。

愛おしさと恋しさのかたまり。




「あ…中、入る？中からでも見れそうじゃない？」
「ふふ、うん、俺もそう思った」





そそくさと2人で部屋の中に入って、
部屋の電気を消してみた。



「あ！見えるよ！」

大きな窓のカーテンを全部開けて、
暗闇の中で見つめる、煌びやかな花火。





窓際にふたりでくっついて見上げる、大きな花。

「あっ、待って」
「ん？」
「アイス溶けてるかも」

そう言った彼が、
そっとアイスの箱を開けて、指でピノを突っついた。

"あ、ちょっとやわらかい"と
指についたチョコを舐めた。



「でも、ギリセーフだよ」と言ってひとつ、口の中に入れた。

"うん、おいしい"

暗闇でもわかるくらい、にっこり笑った。



「Aも食べる？」
「うん」

ちょっと待ってね〜、と
小さな甘いかたまりをピックでプツっとさした。


「はいあーん、」って
わたしの口元に。



…って思ったのに、

そのピノはわたしの口の中には入らず
大我の口の中に消えた。


口開けて待ってたわたしの恥ずかしさったらない。




.

夏→←音 (9/10)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す