十九話 ページ20
五条side
会議室は────いや、会議室と呼ぶことすら憚られる、紛れもない殺 人現場。
呑気な空気もふさわしくない、蹂躙された死 体が転がる、真っ赤な部屋。
果たして───それを見た俺は、何もできなかった。
立ち尽くすことしかできなかった。
───崩れ落ちることすら、できなかった。
なぜならそれは、見覚えのある、術式の痕だったから。
かつて、彼女───Aの家が、壊滅状態になったとき、ずたずたに切り裂かれた人体に残った傷跡が、この、傷跡で。
そして───本当は、蘭藤家が壊滅したのは、彼女の手による犯行だということが、今、はっきりと分かった。
思えば。
違和感はたくさんあった。それでも、気づけなかった。
そして今──気づく。
遅ばせながら、その事実を目の当たりにする。
──────彼女の呪いが、もうとっくに、解けているという事実を。
──────『転力術式』。
蘭藤家、相伝の術式。
ところが───彼女の場合、少し違った。
あらゆる物体を、あらゆる力に変える、『転力術式』。
彼女の場合、それが反対だったのだ。
要するに、あらゆる力を、あらゆる物体に変えられる、突然変異の『転力術式』を、彼女は持って生まれた。
そしてそれが、忌み嫌われた。
加えて、人並外れた運動神経の持ち主であったこと、人外的な美しさをも持ち合わせていたこともまた、差別の対象となった。
自分たちとは違う彼女を、徹底的に排斥したのだ。
愚かだった。
そして、彼女は、“殺 されない限り死なない呪い”と引き換えに、術式と呪力──つまり才能を、奪われた。封じられた。
そしてついに、彼女は狂った。
一度、“殺された”のだ。
・・
自分に。
自 殺、したのだ。
そして、生き返った。
呪いは、解けた。
まさに奇跡だった。
一度は心臓も止まった。呼吸もしなかった。
でも、生き返った。
息を吹き返した。
自力で。
そして殺 した。
蘭藤が持つ『権力』という名の『力』を、武器という物体に変えて。
彼らの己が権力は、体の中から、心臓を貫き、彼らを殺 した。
そして同じことが、今起きている。
権力に溺れた者たちが、死 んでいる。
ただ、茫然と立ち尽くした。
何もできなかった。
「よぉ、役立たず」
そして、後ろに──────
「煙草は体に悪いって」
──────家入硝子が、立っていた。
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紫夜乃 - ありがとうございます!これからもよろしくお願いします! (2021年8月7日 17時) (レス) id: 9a32eeac5c (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - そうでしたか!わざわざありがとうございます!これからもこの作品が完結するまで楽しく読ませていただきたいと思います。更新頑張って下さい!! (2021年8月4日 1時) (レス) id: bfd4f19ab4 (このIDを非表示/違反報告)
紫夜乃 - ごめんなさい!二十二話の前の・の所で作者挨拶の後に二十一話が入ってます!分かりづらかったので後で修正しておきます!これからも応援よろしくお願いします! (2021年7月4日 9時) (レス) id: 9a32eeac5c (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます!あと質問なんですが21話って非公開か作中だったりしますか?22話公開されてるの見たのですが話がぶっ飛んでて困惑してますw (2021年7月3日 23時) (レス) id: bfd4f19ab4 (このIDを非表示/違反報告)
紫夜乃 - コメントありがとうございます!更新は遅いですが、がんばります! (2021年4月29日 20時) (レス) id: fef3ff785e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紫夜乃 | 作成日時:2021年3月27日 16時