【鬼滅の刃】たとへ世界が変わっても、君が愛しいことは不変につき (ページ6)

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【煉獄杏寿郎】妻問ふ彼はページ6

それは嵐のような人だったと後に藤咲Aは語った。

鹿鳴館(ろくめいかん)にて定期的に行われる夜会は、大日本帝国に名を馳せる華族がこぞって参加する大きな催しである。

そんな煌びやか夜の一角で、多くの蝶を纏った金の獅子がいた。

彼は代々続く名家、煉獄家の長子であり、若くして軍の大隊長を務める煉獄杏寿郎という青年だ。

日々鍛錬を怠らず、時間さえあれば己を鍛えることに余念が無い彼は中々夜の席には顔出さない。
珍しく参列している彼に視線が集まるのも仕方ないだろう。

それだけではない。

ただでも美男子である彼だが
その誠実な人柄、才、家柄どれをとっても極上のものであり、世の令嬢方からすればこれ以上にない魅力的な殿方と言えよう。

可憐な蝶達が彼に誘われるのも仕方ない。

慣れない言い募る乙女方を嫌な顔1つせずに、さして興味も無いであろう話を聞き相手取る。

これだけでも、彼が心優しい紳士であることが伺える。

「ねぇ、A。次の曲が始まるわ。一緒に踊りましょうよ」

「カナエ、今夜はいつもの身内の夜会ではないのですよ」

その時だ、彼の耳をどこか聞き覚えのある声が擽ったのは。

「あら、こういう場こそ上流華族が楽しんで示さなくちゃ。もっと気を抜きましょうってね。大丈夫よ、女の子同士がワルツを踊るのを洋画で観たもの」

「元は欧州の文化なのだから問題ない……と言いたいのですね。もう、貴女って人は……」

ふわりと舞う金の髪、友を見つめ優しく細められた淡い瑠璃の瞳。

「分かりました。喜んで1曲、お付き合い致します」

初めて見た人であるはずなのに

『煉獄君。また、無茶をしましたね』

その耳裏に聞こえる声が、杏寿郎には

『貴方も人の事を言えないではないですか』

優しくて、苦しくて、温くて

『貴方を置いて行くことを許してくださいね』

どうしようもなく

泣きたくなるような

柄にもなく縋りたくなるような

そんな気持ちに胸を突き上げられる感覚に襲われた。

「よもや……」

「あら、煉獄さま。涙が!! 目に塵でも入りまして?」

「大変だわ。よろしければ私のハンカチーフをお使いくださいまし」

「……煉獄様?」

呼びかけても、ぼぅっと虚空を見つめる煉獄に、はためく蝶は不思議そうに彼を見つめる。

煉獄杏寿郎には鬼の居る世界の記憶は無い。
ただ、初めて感じた感覚に何を思ったのか。

「うん。これが俗にいう一目惚れというものか!!」

そう結論付けたのだ。