検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:24,350 hit

深淵 ページ15

*


鏡を通っても成仏される事はなくて、私は何の問題もなく鏡舎からハーツラビュル寮へと移動する事が出来た。寮へ足を踏み入れた瞬間はなんだか拍子抜けした気分だった。

本当に、なんの問題もなかったはずだった。


──それなのに、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。


先程から、顔面蒼白のエース君とデュース君が何度も鏡を使って此処と鏡舎を往復していた。私を一人残して……。

私の胸の内が恐怖で支配されていく。

怖い。怖くて訊けない。知りたい。でも知りたくない。受け入れたくない。だけど確認しなくちゃいけない。


「A!!」

「エース君…」


今度はエース君が一人で鏡舎から戻ってきた。キョロキョロと首を動かし、一度もこちらに目を向けてくれない彼を見上げた私は恐る恐る口を開いた。


「ねえ……私のこと、見えないの?」


絞り出した声は情けないくらいに弱々しくて震えていた。


「エース君!私のこと…っ、見えてないの?!」


せめて「うん」って肯定の返事だけでも欲しかった。だけど、それすらも返って来ない。

私の声は彼に届いていない。彼の目は私の姿を捉えていない。

此処に着いた瞬間から、エース君達は私という存在を認識してくれなくなったのだ。


「っA!何処に居るんだよ!?」


最初は、からかわれているのだと思っていた。

だけど不安に満ちたその叫びがこの悲劇を裏付けていた。彼らはこんな残酷な嘘なんてつかない。

ゴンッと頭に衝撃が走った気がした。胸のあたりが締め付けられて、苦しくて、凄く怖い。

こんなにも近くに居るエース君が、涙でぼやけて見えなくなっていく。


「エース!!居たか?!」

「いや…」

「デュース君!私、ここに居るよ!」

「とりあえず、もう一回探そ!俺は寮の方を探すから、デュースはもう一回あっちお願い!」

「わかった!」


戻って来たデュース君にもやっぱり私の声は届かなくて。彼の瞳も私を映してくれていなくて。


「い、嫌だ…嫌だ。ごめん…っごめん、なさい…」


両手で顔を覆った私は膝から崩れ落ちた。

空間転移魔法の鏡なんて使うんじゃなかった。ちゃんと、父の言いつけも守っておけばよかった。


「いや、だ……っひとりに…しないで」


ごしごしと何度も目を擦ってみても涙は止まってくれない。それどころか、どんどん溢れてくる。

しゃくり上げて泣く私を慰めてくれる人なんて、何処にも居なかった。

ひとりぼっち→←お誘い 2



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (68 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
140人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - コメント失礼致します。ゴーストちゃんと生徒たちの関係性がとても可愛くて続きが気になります!ゴーストちゃんにはいろんな愛を感じて幸せになってほしい……!お身体に気をつけて、無理せず更新頑張ってください!応援しています! (2020年7月18日 15時) (レス) id: 791ebcf5a9 (このIDを非表示/違反報告)
ラム - 話し続きが気になる (2020年6月28日 15時) (レス) id: 9e05ed3410 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:みるくる | 作成日時:2020年6月26日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。