猫と花 第二部

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建物内に非常ベルが鳴り響いている。
たちこめる白煙の中、Aは廊下に横たわる天龍の亡骸を見つめていた。
その場にゆっくりとしゃがむと冷え切った彼の頬を指先で優しく撫でる。


「倫也さん……倫也さん。」


何度も呼びかけたとて、返答はない。
たくさんの思い出が脳裏に浮かんでは消えてゆく。
彼とは何かと一緒に仕事をすることが多く、共に過ごした時間は本当に楽しかった。

数日前、自分のことを好きだと言ってくれた。
この世界に来ることが無かったのならばその気持ちを受け入れていたのだろうか。
彼に対しての、友情と愛情のあいだで揺れる自分の感情に、答えが出ていたのだろうか。

今となってはもう、その答えを返す彼はいない。
いつも自分に優しく微笑んでくれた彼は、死んでしまったのだ。


「今まで、たくさん、助けてくれて……優しくしてくれて……ありがとうございました。」


息が苦しい。
心臓が壊れそうなほど激しく脈を打っている。
溢れ出した涙が天龍の青白い顔にぽたりぽたりと落ちた。


「忘れません。あなたのことを。あなたにもらった優しさを。」


ありがとう以上の言葉があればいいのに。
そう呟いたAはふわりと笑った。

Aちゃんの、笑った顔が好きだよ。

彼に何度も言われた言葉がじんわりと心を満たしていく。


「いつかまた会えたら……一緒に歌いましょう。お酒を飲んで、くだらない話をしましょう。」


倫也さん、ありがとう。さようなら。


彼の頬にそっと口付けたAが、名残惜しそうにその場を後にした。



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