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数日後、Aは図書室を訪れた。
白いブラウスに淡いピンクのロングスカート。いつもの足取りでいつもの本棚に向かう途中、不穏な視線に振り向いた。
「……レイ、」
「……よう」
「何よ、今日はそこにいたの?
早く言ってよね。貴方の気配は気付きにくいんだから」
スパイとして呼び出す時とは違う本棚の間で、レイは本を片手に待っていた。
「大丈夫か、色々」
「特に怪我もないし、調子もいいわよ。
ありがとうね、貴方も大変だったみたいね」
「……俺は別に。
それより、お前は、」
「平気よ、もう」
いつもの飄々とした顔と打って変わってレイの顔は落ち込んでいた。
理由は大方わかるけども。
「別に“これ”は貴方のせいじゃないわ」
レイが言いたいのはノーマンのことだろう。
生まれつきスパイとして育てられ、ある程度のプライドを持っていたはず。それをピーター一味に踏みにじられ、かなり参っているだろう。
「今は貴方の方が心配よ。しばらく他の仕事もしてないんじゃない?」
「別に俺は、っ!」
「レイ、」
叫ぶレイの目を見つめた。
酷い隈だ。あれから寝てないのだろう。レイは優しいから。ずっと自責の念を感じているに違いない。
「……っ、ごめん……っ」
「レイ」
「俺たちは確かに汚ぇ世界に生きてる。
俺も、お前も……だからこそお前はいずれ光を浴びて生きるべきなんだよ!!」
「光、ねぇ」
「お前にとってそれはノーマンだろ!?
例えクソだらけのこの世界でも!
っ、お前にとって、あいつにとって……っ」
「レイ、わかったわ。わかったから」
はっとレイは顔を上げた。
肩に置かれた手には憎しみなんてない。
迷いなんてない。
泣きじゃくる子供を前にするように
Aは困ったように笑った。
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響宇(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。夢小説を読みながら涙を流したのはこの作品が初めてでした…!とても楽しく拝見させて頂きました。これからも何度も読み返し愛読させていただこうと思います、ありがとうございました!! (2021年8月28日 3時) (レス) id: 56959af681 (このIDを非表示/違反報告)
ラムダ(プロフ) - こんなにドキドキハラハラしながら読んだ作品はこの『Lady』が初めてです!とっても好きになりました!!!好きになりすぎて3回も読んでしまいました^_^これから応援しています!! (2021年3月30日 1時) (レス) id: 963810d561 (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!楽しく読んでいただけたようでとても嬉しいです。所々に伏線を隠しているのでぜひ色々見つけてみてくださいね。これからも応援よろしくお願いします! (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - 羽鶴さん» コメントありがとうございます! 私の作品の数々を読んでいただき嬉しいです。『Lady』含め作品たちへの応援ありがとうございます!ぜひまた遊びに来てくださいね (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 今まで見た約ネバの現パロ小説の中で1番好きで、気に入りました!!(上から目線ですみません)そして、物語の伏線など、凄いと思いました!これからも応援しています!! (2021年2月7日 19時) (レス) id: 9650a3da61 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:MiUmIu | 作成日時:2020年10月10日 8時