別れたくないよ【三途春千夜】

プロローグ ページ1

・



「なぁA、俺たち別れよう」

「え……？」



その時は、あまりにも唐突に訪れた。
出会いがあれば別れもある。付き合えばさよならもある。

けど、心のどこかで、私たちに限ってそれはないと思い込んでいた。

ずっと一緒にいられるものだと信じ込んでいた。

そうじゃなければ、いつかくる別れに脅えながら、こんなにも好きな人と一緒になんていられない。



「春、なんて……？」

「別れよう」



ソファの隣に座る春は、太ももの間に組んだ手を置き俯いている。

私は頭を殴られたような衝撃を覚え、視界がくらくらと揺れた。
きっと何かの間違いに違いない。そう思いながらも、脈はどんどん速くなる。



「どうして急に……嘘だよね？ 春」



私はすがるような思いで春のことを見つめる。春はずっと俯いたままで、こちらを見ない。

しかし、私がもう一度「嘘だよね？」と言うと、春は顔を上げ、私の顔を見つめた。



「嘘じゃない。ずっと考えてた」

「どうして!! そんな素振り何も……」

「Aは気づいてなかったかもしれないけど、ずっといつ切り出そうか考えてた」

「春……」



涙がとめどなく流れてくる。



「どうして……どうしてっ」



泣きじゃくる私と、ソファから立ち上がる春。

春はため息をつきながらソファから離れ歩いて行く。

どこ行くの。こんな状態の私を置いて行かないで。隣にいて。

心が悲痛な叫びを上げる。



「タクシー呼ぶから、来たらそれに乗って帰れ」

「嫌だ」

「ダメだ、帰れ」

「どうしてそんなこと言うの!? どうして急に別れるなんて言うのよ!!」



春はもう一度大きなため息をつくと、ぼそりと呟いた。



「好きなやつができた」



私の中で、何かが崩れ落ちるような音がした。



＿＿＿＿＿

以降、回想と現在がどっちも出てきます。

1→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す