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チンと軽快な音とともに停止した昇降機から降りるとすぐ前には大きな扉がある。
その傍らに佇む護衛の構成員二人をすっと手で制した立原に続いて、会釈をして通り過ぎると、いよいよ目的の執務室だ。柄にもなく緊張してしまう。
「じゃあ、俺は此処で。見張りに着いてるンで帰る時にまた声かけて下さい」
いってらっしゃいと見送られ、久しぶりの状況にこくりと喉を鳴らしてから戸を叩く。
中原です、と名前を告げれば変わらぬ低音が入室を促した。
「やあ、二人とも。もう八日経ったね。これだけ顔を合わせていないのはきっと初めてだ」
言いながらくるりと振り返った彼は珍しく、そのやたら高そうな椅子に腰掛けてはいなかった。背に回した手を組んで私たちに向かい合うように歩み寄ってくる。
「元気にしていたかい。急に仕事のなくなった日々はさぞ退屈だろうから、また暇潰しにでも遊びに来てやってくれ。紅葉君なんて特に口煩くなってね、昨日も組員に無理を強いるなと怒られてしまったばかりなのだよ」
にっこりと微笑む顔は見たことがないくらいに優しくて。
口をついて零れる言葉はどれも不器用そうに包み隠されたものだったけれど、私と兄には充分に伝わってきている。ゆっくりしていけと、ただ一言言えぬ、中年親父の挨拶だ。
“親”としてはまだまだ未熟な男に、彼は立派に成長したからと胸を張って見せた。
「首領...いや、森さん。最期まで貴方にお仕え出来なかったことは、この中原の生涯において悔いとして残り続けるでしょう。ですが、他でもない貴方が主だったからこそ、組織を抜けたことに後悔などない。今まで尽くさせて頂き、本当にありがとうございました」
以前のように膝を着いて忠誠を誓うことは適わない。だが中原は確かに、森へ敬意を示して
隣に在る凛々しい目を見て妹も自然と口を開いた。
『森さんの元で学べたこと、今でも身に余る光栄だったと思っております。多くの知識と経験は私を形成するうえで大きな基盤となりました。楽しいことばかりじゃなかったけれど、貴方の弟子として過ごした時間は私の背中を強く押してくれます。ありがとうございました』
ああ、そうか。大人に成ったとばかり思っていた。もう我が手など必要ないのだと。
そうではなくて、今、彼らは親元から巣立っていくのか。
“組織の首領”ではなく“子どもの親”として、森鴎外は深く頷いた。
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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (
レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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