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兄と私 4 ページ38

あの日から、太宰治は変わった。

彼と直接顔を合わせたのは久しぶりのことだったが、その近況については中島を中心とした探偵社員から聞かされていたのだ。つくづくお節介の人間ばかりが集まる組織。

それをわかっていて尚取り繕わず、彼らに悟らせてしまうほどに太宰には余裕がなかったのだと容易に想像がついた。

私や紅葉の姐様、首領。それから兄の部下たち。私たちが心を立ち直すまでに1ヶ月かかったとするなら、太宰は皆が立ち直した矢先から崩れ始めた。何事もないと思っていたはずなのに、時間が経つにつれて感じたのだろう。中原中也が居ないことで噛み合わない多くのことへの歯痒さを。

否でも応でも兄の中心に太宰治があったように、彼の中心にも兄が居たのだ。

それは私が一番よく知っている。


『着きましたよ。太宰さんはそのままお風呂にでも入ってください、汚いので。私はあとで入りますから』

有無を言わさず浴室に押し込めると、手近にあった手布を水に濡らして自室に持って行き、ある程度身体を拭いてから服を着替えた。彼の外套も私の服も全部洗濯機に放っておこう。

やっと片付けが落ち着いて居間に入り、はぁと溜息をつく。

『ご飯...どうしよう』

そういえばあの男は私の手料理をたかるために家へ来たんだったか。けれど未だに、私のこの無味症は完治していない。まともに料理なんて作れないことを彼は知っているはずなのに。

冷蔵庫の中身を確認してみたり、台所の周りを意味もなく行ったり来たりしてみて考え込んでいると、不意にがちゃりと扉の方から音がした。

「上がったよ」

『は、速いですね。ちゃんと洗いましたか?』

「さすが妹。中也と同じことを言うね」

少しだけむっとすると、男は私の手元に視線やる。台所が妙に整頓されているのを見てほとんど使われていないこと。つまりは私が暫く料理をしていないことを察したのだろう。

「何を作るか決め兼ねているのかい?」

『それも、ありますけど』

「では蟹入りの炒飯などどうだい」

『蟹なんて買ってきてな...あ』

そうだ、今日は偶然目に付いたから蟹缶を買ってきたのだった。ちらりと彼を見やると満足そうな顔で笑っている。人の買い物袋を覗くなんて悪趣味だ。

「食べたいなあ、炒飯」

『はいはい。わかりましたよ』

にこにこと不躾に見つめられながら、久しぶりに包丁を握った手は我ながらやはりどこかぎごちなかった。

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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:苗代 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年4月8日 2時

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