中原中也の誘拐6 ページ30
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「全くなんなの、君。本当に私の予言の上を行ってくれちゃうなんてさ」
私には珍しく歯に衣着せぬ物言いで複雑な心境を告げると、目の前で寝台に腰掛ける男がしてやったりという顔で、今回はお前の負けだなと鼻で笑って見せる。
「はいはい、私の負け負け。ところで中也、君、身体の調子はどうなの。動けそう?」
「ンだよ。俺を気遣うなんぞ手前らしくもなくて寒気がするぜ。
身体は上手く動かせねェが、まだ此処が動いてやがるからな」
そう言って心臓のあたりをとんと叩いた中也に、また臭いこと言ってと苦笑する。とんだ傍迷惑な相棒だと常々彼に言われ続けてきたがこの際そっくりそのままお返ししよう。君のことで悩み、苦しんだ人間がどれほど居たのか、この男は知るべきなのだ。
「なァ、太宰。俺はあと何年持つ?」
哀愁に満ちた顔に長い睫毛が影を作る。もしもこの場に妹である彼女が居たならば、そんな表情で縁起でもないこと言わないでと叱責したことだろう。それほど言葉の重みが違ったのだ。
「急になあに。未来予測が破られちゃった以上、もう何を断言することも出来ないよ。医者もそう、こういう案件は本当に極々稀だからね。あとは君の根気と生への執着次第でしょう」
「そうか...。まあ、精一杯足掻いてやるよ」
窓から外を見つめる中也の顔に浮かぶ感情の名がなんなのか、その空色の瞳の先に何を見ているのか。この時ばかりは私にも図り得なかった。けれど今考えればそれは、この酸化する無意味でちっぽけで素晴らしい世界に別れを告げる、彼なりの最期の愛情表現だったのかもしれない。
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______花が散り、紅葉が色づく。
太宰の予想を裏切った中也が亡くなったのは、
未来予測を破ったその僅か1ヶ月後だった。
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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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