中原中也の誘拐４ ページ28
二人きりの室内はしんと静まり返っていた。やけに、鼓動の音が大きく聞こえる。
黙り込む俺を見て呆れたのか、太宰が溜息を吐いて語り始めた。
「あのね、君がどれだけ組織に戻りたいと望んでも、それはもう叶わない。君が居なくともポートマフィアが正常に機能することは事実だし、君の代役は芥川君が務めているんだ」
わかっている。所詮内部の地位とて使い勝手の良さを背比べしたときに抜きんでたか、はたまた組織にとって都合が良いかにすぎないのだ。俺がポートマフィアで重宝されてきたのも都合のよい忠誠心と使い勝手の良い異能を併せ持っていたから。
だから首領は、身体が動かなくなった俺を、組織にはもう必要ないと決めた。
「中也、確かに君は変わらない。意思は固いし、芯も強いし、そしてなによりとても優しい。それが君という人間だ。けれどね、それは中原中也の中身の話さ。君がいくら変わらずに居ても、環境や立場は日々変動していく。特に君の場合はここ数日目まぐるしいものだったはずだ」
「あァ...」
答える声が掠れていた。認めるということは、自分の身体が元に戻ることはないと諦めてしまうことと同義。震える声はおそらく、己に対する最後の、精一杯の抵抗だったのだ。
「この際だからはっきり言うけど、君の体はもう、君の心にはついていけないのだよ。無理をしていい身体じゃない。その古い考え方と精神を捨てなければ、そう遠くないうちに必ずツケが回ってくる。今まで自身を酷使した罰だ。それはきっと、否確実に君の身を滅ぼすだろう」
太宰の言うことは最もだった。生きる理由の大半を諦めた今、何を足掻く必要があるというのか。Aも俺が出来るだけ長く生きることを望んでいる。無理をすることもない。けど。
それでも人は、足掻き続けなければ生きてはいけないのだ。
「でもね中也。本当に罰せられるべき人間は、君でも、他の誰でもない」
「私だ」
薄々気付いていた。何故俺の身体が異能に蝕まれていたのかも、あの時期に倒れてしまったのかも。少し前にあった組合戦での一夜限りの共闘が、その予測を更に確固たるものにした。ただ俺は違うと信じ続けることで自身の矜持を保っていたのに。それも、壊れる。
「君の身体に異能力の影響が出始めたのは一か月前なんかじゃない。
本当は四年前、私が組織を抜けた後からだ」
手前がそんな顔をして言うってことは、それが真実で間違いないんだろう。
そんなことはずっと昔から知っていることだ。
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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (
レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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