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最初に異変が現れたのは兄がとある戦場での任務中に突然倒れた時だった。
中原中也はその場の最高責任者として、彼には珍しく後方で指揮を執るのみだったことと、黒蜥蜴や芥川など戦闘に特化した面々が居合わせたがために、大事に至らずに済んだのである。
現場の者はもちろん、本部にて報告を受けた森や尾崎でさえも目を剥いた出来事。
鮮明に覚えているのは、心臓が融かされるくらいに渦巻く大きな不安が唯一つ。
幹部専用の執務室に鎮座する寝台で彼は三日三晩眠り続けた。
一見眠り姫かと揶揄したくなるほど安らかに、綺麗な顔で規則正しい寝息を立てていた。
その間も私は幹部の抜けた穴を埋めるべく、傍らに寄り添いながらも働き詰めで。
連絡を受け任務を終えて戻った頃には、首領や姐様に囲まれた兄が上体を起こしているのを目に映したのだった。ああ、良かった。悪い予感は当たらなかった。そう安心したのも束の間、眼前に飛び込んできたのは苦虫を噛み潰したような顔。
ねぇ、その表情は、一体なにを表しているというの。
「任務お疲れ様、Aちゃん。早速で悪いけれど少しいいね」
そう声をかけた首領の顔も姐様の顔もきっと歪んでいたはずなのに、何故だか私は、一切についてをよく思い出せない。おそらくそれは、認識し難い程度に自身の視界が霞んでいたのだろう。
端的に事を話すとしたなら、兄は異能が使えぬ身体となった、この一言に尽きた。
正確に言えば異能の制御が出来ないわけではないのだが、負担が大きすぎるらしい。
話を聞くに、突如訪れた厄災とはどうにも考えられなかった。
中原中也は生まれ持っての重力遣い。生きている限り、強大な熱量を操り続けねばならないという宿命を背負っていた。これは彼も私たちも承知していたことだ。
けれど今回問題に挙がったのは、能力が想定以上に兄の身体に負荷をかけているからだった。
通常ではあり得ない重みを常に抱えている身として、中原中也は強く逞しく在り続けた。肉体は然る事ながら精神すらも押しつぶされないよう強靭に鍛え上げられていたが、如何せん身体の中まではそうもいかない。
負荷をかけられ続けた内臓はとうに悲鳴を上げ、神経すらも麻痺し始めていた。
しかし更に想定外だったのは頑丈すぎる故に彼の身体は頑なに不調を認めなかったのだ。
おかげで随分と発見が遅れてしまったと、森医師は嘆く。
一通り診察の結果を聞き終えた私の口から言葉は零れず、代わりにひゅっと息が漏れ出た。
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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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