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昨日の話。
それが異能力を使用したことを言っているのだと、考えずともわかる。けれど私は敢てその問いに答えなかった。その代わり真っ直ぐに兄の目を見つめる。話してと、そんな意味を込めて。
「怒ってるよ、な？ その...異能を使ったこと」
『それは怒られることをしたと自覚しているのよね。言ったでしょう。兄さんの身体は破壊されているだけじゃなくて、免疫力すら落ちているから、無暗に力を行使すれば異能の反動に苦しむだけじゃ済まないかもしれないって』
「悪ぃ...」
俯いた顔に落とされた影が、じわりじわりと彼を覆い隠すように広がっていく気がして、鼓動が極端に早くなる。あれは闇だ。兄を奪う異能の闇だ。今すぐにでも呑み込まんとしている。
そう感じられてしまって直視することは敵わなかった。
「正直」
横目に兄を窺いながらも顔を逸らしていると不意に口が開かれた。視線の先にあるのは真っ白いただの布団のはずなのに、どうにもその瞳は、もっと奥底の何かを見透かしている。
「正直な。言い訳のつもりじゃねェが、手前を助けようと必死で衝動的に能力を使っちまったンだ。後々苦しむことになるとか、怒られるかもしれないとか、そんなことは頭になかった。少し前までなら違ったかもしれねェ。あの時の俺にはそれほど、余裕がなかったんだ」
ぽつりぽつりと独白のように語られる本音は、仕様がなかったと慰めているのではない。
戒めているのだ、とそう思わせるような声色で。
兄はとっくに受け入れていた。自分を哀れむわけでもなく、過去を後悔するでもなく、異能と身体が使い物にならなくなった現実を真っ向から受け止めていたのだ。
だけどもそれも、少しの動揺で崩れてしまう脆いものだった。
ただそれだけのこと。文句もなにもあるはずがない。
『ふふ、馬鹿ね。怒ってなんかないわよ。だから顔を上げて、私を見て。私が一体なにを思っているのかわかる？ 憤りの代わりに兄さんに対してどんな感情を抱いているのか、わかる？』
「わか、ンねえ」
本当に昔からつくづく実感させられる。長年裏社会に身を置いてきたこの男は、他人の思考を読みとることには長けているはずなのに、情に対してだけは、こんなにも盲目的だ。
もしも守ることが兄の役目だと言うのなら。
妹の役目はきっと、そんな兄を心配すること。
『どうか一人で抱え込まないで。貴方は、一人で闘っているのではないのだから』
随分と骨ばってしまった手を、そうっと握りしめた。
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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (
レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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