家族になって十八日目 ページ40
人の波に流されて、ようやく抜け出した場所は大きな木の下。私はふっと一息吐いて安心していた。
安心、というのもおかしな話だ。伝えようと足掻いた言葉を言わない口実ができた。それに胸を撫で下ろしている自分に嫌気がさすのは、もう何度目か。
不自然な場所にたった一人で立ち尽くす私を、人々は怪訝そうな目で見ては去っていった。どれほどその光景を見つめても、中也さんは見つからない。
このまま何処かに消えてしまえば、また一人に戻れば、自立できるかな。
その考えが脳裏を掠めても実行に移すには勇気がなかった。
なんだか、すごく虚しくて、寂しくて、心細い気がした。一人を忘れた私はとても脆いのだと改めて感じるほどに。
木の幹を背に俯いていると、ふと甘い香りが漂ってくる。出処を探せば、白くてふわふわした雲のようなものが棒に巻き付けられているのが、遠目に見えた。屋台の垂れ幕にはわたがしの文字。
『美味しそう...』
思わず歩き出しそうになったところで、手を勢いよく引っ張り寄せられる。ぐらりと後ろ向きに傾いた身体を受け止めたのは、私より一回り少し大きい身体で。降ってきたのは聞き慣れたものより少し高い声。
「A、ようやく見つけた！」
『中也さん...』
夏の暑さだけとは思えない汗が、彼の額から顎までをたらりと伝う。少しの息切れは体力的なものではなく精神の焦りからくるのだと直感がいう。
はぐれてしまったことを反射的に謝ろうとしたとき、肩を掴んで振り向かせられ、気づいた頃にはその腕の中だった。え、と間抜けな声が出る。
「悪ィ、こんな人混みのなか一人にさせちまって。怖かったよな。はぐれないために手を繋いだってのに、離しちまって」
突然の言動に目を見開いて、ようやく絞り出した声は、あ、の一言。それ以上口は動かない。だって手を離したのは私の方だから。
中也さんは私と家族になってくれた。家族とは、相手のことを思いやるものだとも教えてくれた。けれど私は、いつも自分のことばかりで。言いようもないほどに後ろめたかった。
彼はどんなときも待っていてくれたのに。言いたいことも、言わなければならないことも言えなくて。伝えなくちゃ、届けなくちゃって、気持ちばかりが逸る。
でも、人を思いやる気持ちってやっぱり届く。
自立したい心に背中を押された。
そんなことはいいから聞いて、と。
『あのね、中也さん』
『わたがしが、食べたい』
まずは一歩。言いたいことが言えるように。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (
レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください！と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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