家族になって十五日目 ページ37
連れられて到着した場所は、到底祭りとは縁遠そうな立ち並ぶ高層ビル群の一角。背筋を伸ばしている黒服にぺこりと頭を下げてから中へと足を踏み入れる。
やたらに長い廊下を右へ左へと歩いて、突然中也さんが立ち止まった。思わずその背にぶつかって、彼の視線の先を覗くと、茶色い扉。
『中也さん、ここは』
問いには答えず彼が戸を叩く。中から聞こえたのは、どこか艶やかな品のある女性の声。よいぞとという返事を聞いて開かれた部屋におそるおそる入室する。
「来たな。待っておったぞ」
美しい女性が一人、立っていた。
「紅葉の姐さん。では、Aをよろしく頼みます」
「任せておれ、そこらの娘とは比較にならない出来にしてやろうぞ。元の素材が良いからのう。何を着せたって似合うこと間違いなしじゃ」
「はは、あんまり遊びすぎないでやって下さいよ?」
そうして二言三言会話を交わすと、中也さんは当然のように私を置いて部屋を後にした。この場には私と彼女、紅葉さんだけが取り残されて、なんだか落ち着かずに身動ぎする。
「そう緊張するでない。
『えっと、紅葉さん。何度か病室に来てくれてた』
「そうだったの、覚えておったか。今日は中也に頼まれてのう。主ら夏の祭りに顔出すらしいな? せっかくじゃ、“夏の風物詩”を楽しんでくるがよい」
そう言って紅葉が取り出したのは彼女が着ているものより幾分か薄く、涼し気なもの。浴衣だった。もちろん私は着たことなどないけれど、その存在くらいは知っている。
控えめな桃色の生地に紫色の紫陽花と金色の蝶々があしらわれた美しいそれに、思わず胸が高鳴る。高揚した気分のまま何気なく紅葉さんを振り返ると、どこか痛々しく、悲しげに俯いていた。
「勝手ですまんが、主の粗方の生い立ちは中也から聞いておる」
『え?』
突然の告白に意図せず素っ頓狂な声が出る。
「ひどい生活をしていたと聞き及んだ。人並みの幸福も知識もなく、侘しい思いばかりしてきたのだろうと。主が一喜一憂すること全てが、世では普遍的な何でもない営みなのじゃと。勝手に聞いておいて、勝手に胸を痛めた」
『紅葉さん?』
「だからの、A。もう少し勝手をいうなれば、私にその頭を撫でさせておくれ。何かあれば打ち明けておくれ。都合の良い頼りに、してほしい」
『そんな...!』
都合が良い、なんて。
私の気持ちを他所に着付けをする彼女の手は、とても優しく丁寧だった。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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