家族になって十三日目 ページ35
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翌日、少女が何気ない日常的な会話のように切り出した。
『昨日家で中也さんに聞いたんだけど、貴方って死にたがりらしいね。死にたがりはみんな仏教を信じてみたくなるものなの?』
「さあねぇ、私は死にたがりに出会ったことがないから」
こてんと首を傾げる彼女に答えると途端興味を失ったように再び勉強に勤しみ始めた。首筋にうすらと汗を掻いているのがわかる。この夏に、彼女は全身を覆うような服ばかり着ていた。
上は常に長袖で、下はタイツとスカートというのがお決まり。見ている限り、発汗しないわけでも暑くないわけでもなさそうだが、頑として肌を見せようとはしないのだ。
そう、まるで何かを隠すように。
ただでさえか弱そうな細い体に、くすんだ色白だ。
尚更病弱に見えると気付いているのだろうか。
「まあそれを追求するのは、今じゃなくてもいいか...」
『なに、何か言った?』
「いやなんでも」
太宰は顎に手を当てて思案する。やはりこの娘は、いつか中原中也を壊すことになると。良くも悪くも大きく転ぶだろう。少しだけ漏れた笑みを指で遮る。自身こそ、夏の日差しに当てられているかもしれなかった。
Aちゃんとの出会いについて中也から粗方聞いていた。それを踏まえて彼女の言動のいくつかと照らし合わせると、面白いことに気付かされる。
少女の中で中原中也という影が大きすぎること。
宛ら、神様と同一とでもいうように。
そうか、君は中原中也を神様だと考えるのか。実態はなく、概念として存在するだけの、人間の空虚の産物だと。表面上の畏敬そのものだと。
“君も”そう考えるのか。
「うふふ、ふふふふふ」
『えっなに。太宰治、貴方今日いつも以上に変だよ』
突然腹を抱えて笑い出した私に、少女が訝しげな視線を送る。身を少し引いて拒絶まで表していた。このとおり、私たちは反発し合う。決して互いを安易に受け止めたくない。
けれども似ている。至極、馬鹿みたいに。
中原中也を神だと考える人間が“他にも居た”なんて。
これが笑わずにいられるか? 否、不可能だ。
でもね、Aちゃん。中也は確かに神様だよ。神を信仰しない幼い私の、唯一無二の神だった。死に最も近いにも関わらず、生気に溢れてる。生死の狭間を感じさせる危うさ。私を楽しませる、人間。
「ふふ、確かに私、今日おかしいかも」
『一応言うといつもだけど』
君は知ってるかな。神様を殺すのはいつも信者だって。
さて、どちらが壊すのか楽しみだ。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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