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○△□ ページ18

あの後、彼は結局一言も話さなかった。

気まずい空気のなか私は森鴎外が用意してくれた部屋へと戻り、心を沈めて時が過ぎるのを待っていた。目頭が熱くて胸が苦しくて。それでも、静かに待っていた。

帰りたくない____。

誰にも言えるわけがなかった。

だから嫌って欲しかった。大好きな貴方だからこそ、期待せず、何も知らない振りをして元の世界に戻りたかった。全てを分かっていても、私の心はそれほどに弱い。

弱いからこうなっている。


枕を顔を押し付けて孤独を耐えていると、ゴーンと時間を知らせる時計の音が鳴る。ゆっくりと面を上げた。

『もう、6時か』

そろそろ森さんのところへ向かわなきゃ。

*

「やぁ、来てくれたね」

机に肘をついて組んだ手の上に顎を乗せ、にこにこと笑みを浮かべる男にはいと覇気のない声で返事をする。彼もそれに気が付いたようだったが特に言及はされなかった。

それもそうだ。情報さえ受け取れば、
これから一生縁のない人間なのだから。

中也さんにとっても、そうだ。

私がいなくなったところで誰の中でも、何も変わらない。

『まずは、探偵社についてです』

淡々と口を動かし、尋ねられたことに正直に答える。
その作業に罪悪感など微塵も感じなかった。

どうせ変わらない、どうせ私はこの世界から消える。

だからどうだっていいの。この世界のことなんて。



「話は終わったようだな」

首領の執務室を出たところで、壁に背を預けて腕を組む彼と出会す。感情の冷えきった顔で頷いてその横を通り過ぎようとしたとき。

腕を取られた。

思わず、顔に色が差す。

『なっ、なん...ですか』

「行く前に話をしねェか、聞きたいことがある」

有無を言わさぬ威圧感に気圧され腕を引かれるままついて行くと、そこは彼の執務室だった。昼間気まずくなった空気がそのまんま残っているような気さえする。

やたらと肩が重く感じるなか、沈黙が続く。そうっとソファに腰掛けて窓の外を眺める彼の背中に視線を送る。今日は綺麗な満月だった。

「手前はこのあとどう展開するつもりなんだよ」

凛とした声がやけに耳を刺激した。
冷や汗が吹き出す感覚がとても鮮明だ。

口内が乾く、血の気が引く、心臓が絞られる。

嘘だと言って欲しかった。
彼がそんなことを言うはずないのだから。

有り得ないと理解しているつもりなのに、期待をさせないで。









「なぁ、嘘吐き。本当にここはただの漫画の世界か?」

○△□→←愛の三日目



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苗代(プロフ) - 斜陽族さん» コメントありがとうございます。最後の最後に一気に更新したので、急ぎすぎてしまった感じは否めませんが、そういって頂けて本当にありがたいです。環境がら多忙なことに変わりはありませんが、これからも作品を書き続けていくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2019年1月3日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
斜陽族 - 読み終わってとっても感動しました!こういう深いお話好きです。発想力があって尊敬してしまいます。これからも無理のない程度に頑張って頂けると嬉しいです! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 4feb0da943 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - マッキーさん» コメントありがとうございます。現在とても忙しい状況で、当作品も含め連載中の作品全て手がつけられていないのですが、そろそろ更新を再開していくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2018年12月26日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
マッキー(プロフ) - 更新頑張ってください! (2018年12月25日 22時) (レス) id: 0346650c4f (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - リツさん» ご丁寧なコメントありがとうございます。主人公の設定は私を自己投影して作成している面が大きいので、読者の方にそう言って頂けてとても嬉しいです。ぜひ最後までお付き合い下さい。 (2018年11月21日 17時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:苗代 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年10月29日 15時

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