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愛の三日目 ページ17

「お前、だいぶ寛ぐようになりやがったな」

『まあ』

照れ隠しだけどね。

三日目の今日、私は中也さんの執務室のソファに寝転がって本を読んでいた。確かに他人のパーソナルスペースに踏み込んでいる側の人間とは思えないほどリラックスして見えるだろう。でも照れ隠しだけど。

昨日のことはあまりよく覚えていない。
二人で買い物をしたりしたことは覚えているけれど、具体的なことは記憶から抜け落ちてしまっていた。何とは言わないけれど意識がたったひとつに落ちてしまっていたからだろう。


今日の夜私は森鴎外に情報を引渡し、ポートマフィアを、中也さんの元を去る。元の世界に戻れるのかどうか確実にはわからない。けど、三日間考えた末当てが全くないわけではなかった。

おそらく、帰れるだろう。

けど本音は。

『...ねえ、中也さん。バタフライ効果って知ってます?』

「突然なんだよ。名前くらいしか知らねえが」

執務仕事を進めていた手を止め、訝しげな目でこちらを見る。初めて出会った四日前とは比べ物にならないほど優しい瞳だった。少しだけ嬉しくなり、悲しくなる。

『バタフライ効果っていうのは、まあ簡単にいうと少しの変化がその先の大きな出来事に繋がるっていうカオス理論のことです。例えば私が今ここでだらしなく本を読むことによって、この先中也さんにはずーっと彼女が出来ないみたいな』

「それとこれとどう繋がるんだよ」

『さぁ? でも普通に考えたら意味がわからないですよね。そんな関連性の見つけられない物事が連鎖的に重なって大きくなり決定的なものに成り代わることを、バタフライ効果と、そう呼ぶんです。』

一度振り向いた時眉間に皺を寄せて難しい顔をして聞いていた彼の表情を見るため、再び視線を動かすと今度は伏せ気味に顔に影を落とす男がいた。

中也さん?と名前を呼ぶ。

「てめぇはそれをつまりどういう意味で言ってんだ。こんだけ好き勝手しておいて、今更情報を渡すのが怖くなりましたとでも言う気か」

あからさまに低くなった声に目を細める。

『違いますよ。だって、どうせ変わらないもん。言ったでしょ。私たちの世界じゃ、この世界は漫画で貴方達は登場人物。作者っていうストーリーテラーが全てを決めているんですから。貴方達じゃ決まった未来は変えられないんです』

冷たく言い放つ私に彼は目を伏せたまま沈黙した。
この世でいちばん愛した貴方に、最高の毒を。

どうか、嫌われるまで。

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苗代(プロフ) - 斜陽族さん» コメントありがとうございます。最後の最後に一気に更新したので、急ぎすぎてしまった感じは否めませんが、そういって頂けて本当にありがたいです。環境がら多忙なことに変わりはありませんが、これからも作品を書き続けていくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2019年1月3日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
斜陽族 - 読み終わってとっても感動しました!こういう深いお話好きです。発想力があって尊敬してしまいます。これからも無理のない程度に頑張って頂けると嬉しいです! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 4feb0da943 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - マッキーさん» コメントありがとうございます。現在とても忙しい状況で、当作品も含め連載中の作品全て手がつけられていないのですが、そろそろ更新を再開していくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2018年12月26日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
マッキー(プロフ) - 更新頑張ってください! (2018年12月25日 22時) (レス) id: 0346650c4f (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - リツさん» ご丁寧なコメントありがとうございます。主人公の設定は私を自己投影して作成している面が大きいので、読者の方にそう言って頂けてとても嬉しいです。ぜひ最後までお付き合い下さい。 (2018年11月21日 17時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:苗代 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年10月29日 15時

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