Chapter.11 ページ12
ぽつぽつと歩みを進めて、本部ビルの中庭のような場所に出る。
もちろん無機質な壁に囲まれ閉鎖されたちっぽけな空間でしかない。
何時手入れされているのかも定かではない植木鉢の中心にある長椅子へとそっと腰を下ろす。
『志賀直哉は、何者なの...』
誰に言うでもなく呟いた言葉は果たして自身の耳にしか届かず、風に乗る前に掻き消され、自問自答を繰り返すだけとなったが、それでも構わないと思ったのは答えなどとうにわかっていたからだ。それを誰かに確認したいだけに過ぎず、だが誰にも話すことが出来ずにいる。
先刻感じた訳のわからないものの正体とは、詰まる所これだったのだ。
こうなることを予感して身体が拒絶の反応をみせた。本能的に、ある考えに行き着くことを拒否していた。だってそうじゃない。これじゃあ、私が悩んでいたのが馬鹿みたいでしょう。
“志賀直哉は、他組織の間諜である”
内容から踏まえてもそれ以外の答えがない。この答えが正しいのではなく、この答え以外には見つけようもないくらい明白なのだ。彼は組織の命を受けてポートマフィアに侵入し、剰多くの者から好意を受け取り、それすら手玉に取っていた。
恐ろしい男だ。組織にとって害悪な男だ。憎むべき男だ。
それなのに何故私は、この事実を胸中に留めておこうなどと思っているのか。
___彼が、私を相棒と呼んだから。
相棒とはそんなに安っぽい言葉ではないはずだ。兄と太宰を見る限り、二人はさも互いが互いを一番解しているとでも言いたげで、それが当り前だとでもいいたげで、とても眩しかった。
それが私たちはどうだろう。
一方は相手を拒んで罵詈雑言を浴びせ、
一方は紛い物のの汚らしい繋がりを唱えている。
『なにが相棒よ...』
小さく吐き捨てて、当初とは違う目的を持って再び長い廊下へと踏み出した。
**
「えっAちゃんが一人で任務に?!」
太宰は昨夜の報告のために訪れた執務室でたまたま、森からそのことを聞かされた。
昼頃に彼女と志賀とで着任するはずだった潜入任務にたった一人で向かったとのこと。この類の仕事は計画通りに進むことの方が珍しく、ある意味前線よりも危険性が高いから、私でさえ初の潜入任務は中也と合同で行ったというのに。
「何故止めなかったんですか。流石に、彼女一人では不測の事態に対処しきれない」
中也が怒りますよと眉を顰めて言い放つと、男はうーんと唸りながら顔を上げた。
「そうは言ってもね、彼女が望んだことだから」
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