傘【茅ヶ崎至】 ページ10
『あっ、いた…』
私は駅に着くと、至と同じ会社の人であろう人がいた。
どうやって声をかけよう……？
至｢…！！｣
至｢A？｣
『い、至……！』
至｢ありがと｣
至は笑って傘を受け取ってくれた。よし、第一課題はクリア。
｢ち、茅ヶ崎さん？この女の子は一体……？｣
『え、えっと……』
至｢俺の妹なんです。ね？A｣
『……う、うん。茅ヶ崎Aです。いつも兄がお世話になっています』
無理やり至の妹設定にしたけど、いいかな。
｢きゃー、かわいいっ！茅ヶ崎さんと同じで礼儀正しいですねっ！｣
至｢あはは。それはうれしいね、A｣
『そうだね、兄さん』
至が礼儀正しいことにびっくりしたけど、そういえば至は幸が言うインチキエリートだった…。
至｢A、外ではお兄ちゃんって呼んでくれないの？｣
ここで至の爆弾発言。うわ、妹設定にしなかったらよかった……。
『は、恥ずかしいでしょ』
私はそっぽを向き、そう言う。
至｢……そっか｣
演技なのに、本当に悲しそうな顔をする至。同じ会社の人もこれに騙されてるのか、気の毒だ。
｢えーっと、A、ちゃんだよね？一回でいいから呼んでみて！！｣
『え、ええっ……』
あぁ、至の狙いはこれか…。
前の春組との稽古でお兄ちゃんって呼ばせたがってたしね。
一人で納得していると、更に至が追い打ちをかけてきた。
至｢ね、お願い。A、ダメ…？｣
『っ………』
至の演技力が恐ろしい……！！
『い、至お兄ちゃん、早く帰ろ……？』
至｢……(満足だわ)｣
｢きゃー、かわいいっ！！｣
至｢(よく見れば課長までAをガン見してるし…)｣
『……』
至｢A、帰ろっか｣
至は突然、私の手を引っ張りだして歩き出した。
至｢すいません、みなさん。お先に失礼します｣
『え、えっと…さようなら！』
『ちょ、至！！濡れる！濡れるから！』
至｢あ、忘れてたわ｣
『はぁ……』
やっと手を離してくれた…。
至｢A、こっち来て｣
『な、なに？』
至｢はい、これ着てて｣
至に手渡されたのは、スーツのジャケットだった。
『え、でも……』
至｢いいから｣
『ありがと』
腕をグイッと引っ張られた。
至｢よし、これで帰るか｣
至の言う、これとは相合傘のこと。
『ばかじゃないの、至が濡れるでしょ？』
至｢うわなにこれ、Aデレ期？｣
『もう一生言わないっ！』
至｢ごめん、ごめん｣
『はぁ……』
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作者名：ろい
| 作成日時：2018年6月30日 23時
