標的28-1 ＊名前も分からぬあの人へ ページ3
「そろそろ、良いだろうと思った」
煩わしい書類整理中のオレの下へ近づいてきたやけに静かな紫苑は、開口一番にそう言った。
訝しんで眉を顰めたオレにあいつは微笑んで、手に持っていた一枚の紙をよこす。そこに書かれていたのは住所らしき文字と部屋の番号らしき数字の羅列で、オレはますます意味が分からず紫苑を見上げた。
君のよく知る女性がここにいる、そう言ってあいつは変わらぬ笑みでオレを見下ろす。
「無論、君の意思に任せよう。殺すのも仕方のないことだ。でも、いろいろとケリをつけなければならんだろう？」
一度会ってみるといい、と言う紫苑はまた静かに部屋を出て行った。
オレのよく知る女とはいったい誰だろうか。過去関係を持った女を頭の中で並べていくが、どれも一夜限りでよく知る程ではないし、第一紫苑が気にする程の奴でもない。
報告書や請求書の白とインクの黒にいい加減うんざりしていたオレは、ほんの気まぐれで重い腰を上げたのだ。
運転手に命じ、紙に書かれた住所の近くへ向かわせる。その場所でないのは、ただの直感がそう告げていたからだ。
車から降り、しばらく歩くとそこは病院だった。入院でもしているのだろうか。しているにしてもそんな弱っちいカスが、オレのよく知る女なのか。
受付に紙に書かれていた部屋番号を伝えると、すんなり場所を教えられた。ここはボンゴレの息がかかっている病院なのだろう。妙に居心地の悪い白い廊下を進んでいく。すれ違う者はいなかった。
扉の前に立つ。紙に書いてある場所はここだった。当然罠もなく簡単に開いたそれを一瞥し、パーテーションで仕切られた奥へ足を進める。
「あら？ いつもの子じゃないみたいね」
白いベッド。風に靡くカーテン。そこに、いたのは──。
「な、んで……てめぇが……！」
オレを産み、オレを疎み、オレを蔑み、オレがボンゴレの息子だなどと妄言を吐いて屈辱の切符を握らせた──世間では母親と言うべき存在の、あの女。
女が何者か認識した瞬間、オレの中で怒りがぐつぐつと沸騰し始めた。このオレの人生を歪めた女が、今オレの目の前にいる。ピクリ、と指が動いた。
「やあ、元気か？」
その時、ガラリ、と扉を開けたのは紫苑だった。
「あら、どうしたの？」
「この子の案内でな。遅れてすまない」
「いいのよ。来てくれて嬉しいわ」
目を見開くオレを他所に勝手知ったる口調であの女と話す紫苑は、「少し出る」と言ってオレの手を引き廊下に出た。
標的28‐2 ＊あの人と→←標的27 ＊12/25 Buone feste!
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misyou.go2(プロフ) - 桜さん» 最後にどんでん返しは王道ですよねっ(笑)応援ありがとうございます (2017年12月25日 18時) (
レス) id: ffd771d2d5 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - クリスマス最後が一種のホラーになりましたね……ｗ なんて恐ろしい……。これからも応援してます！ (2017年12月25日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：misyou.go2 | 作成日時：2017年10月31日 20時
