[雪代縁]放っておけない2

49話 ページ1

固くて冷たい床の質感が頬から伝わってくる

上海に来てからずっとふかふかのベッドで眠らせてもらっていたので 最悪の起き心地だ



ゆっくりと目を開けると、建付けの悪い小屋の隙間から漏れる日差しが 夜が明けたことを教えてくれる





｢起きましたカ｣


｢！｣


背後から声をかけられ思わず飛び起きる。が、手足を拘束されているため支え無しでは座っているのも難しい
そのまま再度、肩から床に倒れ込んだ






｢…起きるのを待つなんて優しいところがおありで｣


｢ええ。今世で最後なんですカラ、無理に起こすのは気の毒かと思いまして｣



男は傍にいた部下に目配せをし、部下はそのまま小屋の外へ出ていく

この狭い空間に男とわたし、2人きりになった





｢…少しでも抵抗したら四肢に銃弾を撃ちマス。外には見張りも居るので変なことは考えないのが吉デスヨ｣



｢……｣


グ、と手に握った拳銃を身体に突きつけられる


不服すぎて泣きそうだが、小さくこくり、と頷いた




そんなわたしの反応を見て 男は口の端を吊り上げる


わたしの手足の縄を切れば、ゆっくりと帯を解いていった

小袖はそのまま全て脱がされ床へ放り捨てられてしまい、すぐに長襦袢1枚だけの姿になる

それも昨夜この男に片方の襟をずり下げられたので、肩が露出していてなんとも心もとない格好だ


これも脱がされてしまったら、わたしは…




｢…ここまで嫌な表情されるのは少々不快なのデスが｣



手を止め、男がため息混じりにそう呟く



｢…だって、こんなの……｣


｢別に初めてじゃないでしょう｣



呆れたように鼻で笑うと、男が再び長襦袢の襟もとに手をかける

今度こそ脱がされそうになったその瞬間、もうほぼほぼ諦めていたはずなのに、生存本能というやつだろうか？いや、きっと最後の悪あがきだろう。自分の身体が勝手に動いた








｢初めてですが！｣








めいっぱい力を込めて右足で思いっきり男の腹を蹴りあげる

｢ウグ…！｣と声を漏らす男を通り過ぎ、走って小屋の出口へ向かい扉を開いた
後ろを確認すると男はすでにもう起き上がり、苦悶と怒りの入り交じった表情でわたしの方へ向かって来る

やはりわたしの蹴りだけじゃ無理があった









捕まる……！









そう思い、目を瞑った瞬間







何故か後方ではなく、腕を掴まれ前方へ引っ張られる






ぽす、と頬にサテン生地の布の感触を感じた








顔を見なくたって、それが誰なのかわたしには分かる









いつだって、こうして優しく抱きとめてくれるのは…









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