I want to live quietly (ページ29)

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花の香りページ29

｢おはよーみんな｣
｢おう｣
｢おはよーございますAさん｣
｢おはよう。頭痛はもう平気なの？｣

由花子がAを覗き込んで、頭を指さしながら聞いた。Aは笑顔で頷いた。

｢はい！お陰様で、すっかり元気だよ｣
｢おー！そりゃよかったじゃあねえか｣

億泰の顔がくしゃりと笑顔になった。もとの強面の顔とは随分違った、人懐っこく、優しそうな笑顔であった。Aはそんなことを考えながら、『ありがとう』と言った。

未だに菊池玲の『夢』のことはまだ頭に残っていたが、この賑やかな人達に囲まれて過ごせばそのまま忘れるだろう。

Aはそう考えていた。

｢あっ、時間ギリギリですよ！急ごうみんな！｣
｢別によォ～学校遅刻したって死ぬ訳じゃあねえだろうがよォ…っておい！置いていくなよォ康一ィ！｣

優等生康一は由花子の手を引っ張ってごちた億泰とそれに頷いて同調していた仗助を置いて行ってしまった。Aも喜んで学校を耽るようなタマではないので、2人に着いて行く。
後ろから仗助と億泰も走ってついてきた。
それを康一と由花子とAがふざけて逃げようとするもんだから、2人もスピードをぐんぐんあげる。

｢っしゃ、つかまえた…っとと！！｣
｢わぁっ！｣

Aが悲鳴をあげた。
仗助が追いつく直前で躓き、Aを後ろから抱きしめるような形で思い切りぶつかったのだ。

｢す、すまんA！ケガねえか？｣
｢だ、大丈夫…びっくりしただけ…｣

お互い女子に飛びついたりだとか、男子に飛びつかれた経験のないふたりが照れたような困ったような顔で笑った。その2人に割り込むように、康一が声をかける。

｢もう…気をつけてよ仗助くん。君体でっかいんだからさァ｣
｢わぁーってるって次から気を付けるよ｣

仗助はあまり反省したように聞こえない声色で言って､鞄を肩にかけ、手をひらひらさせながら4人より先を進んでいく。

(顔が…熱い…)

仗助は顔に手を当て紅くなっているであろう自分の頬を、不自然じゃないように隠した。

いつも自分に寄ってくる女子達とは違う、香り。

香水とか柔軟剤とかそういう匂いじゃあなく、彼女自身の香りだろうそれは、その華奢な体を受け止めた時、花のようにふわりと香った。

全速力で走った後みたいに心臓がうるさい。

そのあと学校に行くまで、仗助がAと目を合わせることは無かった。