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…いや、ないな、流石に無い。だって主は今、政府の奥のほうにある部屋で定期検査を受けている。
…奥の方?そういえば此処も奥の方だったな?時間的にまだ検査は終わっていないであろう時間だ。
彼の背中に、冷たい何かが走った。
まさか、主?なのか?本当に?いや、悪い気に取り憑かれただけ、だろう。…そう、きっと。あれは主じゃない。ほら、この前、主が、自分にそっくりな人が世界には三人いる、と言っていたじゃないか、きっとそれだ。大丈夫、大丈夫。主じゃない。
えもいわれぬ恐怖をどこかで感じながらも、蛇が人であろう何かの体を弄る様子を、取り憑かれたように見つめる。
恐ろしいはずなのに、なぜか目が離せない。出よう、こんな部屋。悪趣味だ。そう思いながらも、目線は、心の奥深くは、目の前の蛇に、蛇が弄る誰かに釘付けで。
…あ、顔が見えそうだ。
永遠とも思える時間が、一瞬の時間が過ぎた。
「…主だ。」
見えた。
見えてしまった。
見えた顔は見知った顔だった。親のような、妹のような、姉のような、大好きな人、紛れもない本人の顔だった。
鶴丸は刀剣男士だ。Aの霊力で顕現している、一般的な、人生に欠かせないものは驚きだと主張する鶴丸国永。特に欠陥もなく、精神を病んでいる訳でもなく、健全な状態の。だからこそ、分かってしまった。理解してしまった。目の前で、どこの馬も骨かもわからない、得体の知れない蛇に、身体を弄られている人間が、六十振り以上もの刀剣を従える、少し内気で、可愛らしく、時々とても頼りになる主だということに。
鶴丸の頬に、真珠が流れた。
それは次々に鶴丸の頬を伝って流れていく。
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作者名:味噌田楽 | 作成日時:2021年5月23日 22時