箱庭 (ページ21)

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乗せられた掌ページ21

メロンパン号に乗り込もうと扉を開けると後頭部を擦りながらバタバタ慌ただしく伊吹さんが追い付いてきたので志摩さんの言うとおりになったなあと感心していた

「二人とも置いてくなんてひでーじゃん」

「お前の不注意で時間を無駄にはできないだろ」

「つめたいねぇ。Aちゃーん、志摩が冷たい」

慰めて慰めてと言わんばかりに近づいてくる伊吹さんに丁度良いと思い掌を差し出す
ん?と首を傾けた伊吹さんが掌と私の顔を見て、やがてはっとした

ぽん、乗せられたのは掌だけ

「わん」

『あら…』

「いや、違うだろ」

犬のお手のつもりだと思ったのか伊吹さんが右手を重ねてわんと鳴いた。そこに羞恥心が一切ない、すごい

褒めてほしいのかじっと見てくる双眸に犬属性なのは違いないと思いつつ、志摩さんが咳払いをしたので本件を伝えなくてはならない

『伊吹さん、メロンパン号の鍵ください』

「鍵?」

乗車する前、鍵は伊吹が持ってるからと運転する主旨を伝えると志摩さんからの返答は上記のとおりだ

ここら一帯の地形は把握しているものの、404の中では私が一番新入りだ。せめてお二人の脚くらいにはなりたい

その意図を汲んでくれた志摩さんは特に何か言うわけではなかったが、伊吹さんはというと

「あーいいよ。俺が運転するからAちゃんは後ろに乗ってて」

『でも、』

「俺、ここに来るまでは奥多摩で交番勤務してたからまだ道覚えてないし…それに、きゅるっとした女の子乗せて運転してみたかったんだあ」

完全に後者が本音だろと思ったが志摩は黙ったままどうAが返すのかと彼女を見た
一瞬の巡査があった後、彼女はわかりましたと微笑を浮かべた

『じゃあ伊吹さんにお任せしますね』

「よっし!じゃあお手をどうぞ」

後ろの両開きのドアを開け甲斐甲斐しく伊吹がAの掌をとると中へと引き上げた
あまりにも調子の良い伊吹に一種の不安を抱いたものの、隊長命令には逆らえないからと志摩も諦めてメロンパン号に乗り込んだのだ

何もないことが一番だが、そう上手くいかないのは警察の常だ