朱が滴る花 ページ38
突き刺さった刀は幸い体を貫くほどの重症ではないが、浅い傷ではない
一思いに邪魔な刀を引き抜けば傷口から溢れんばかりの生温い液体が隊服を染める
呼吸により出血を止めようと試みたいところだが、生憎とその暇を与えるほど、目の前の鬼は甘くない
新月による下からの刃の振り上げを飛び退き避けるが着地点を予測していたのか横からの影による打撃に防御体制をとる
巨大な腕による一発は重い、故に威力を消すために地面を滑った
上弦ではない、とはよく言ったものだ。
点々と続く己の血液に一度視線を投げて顔を上げる
藤色はゆらゆら。藤の花を模するよう揺れ動く
「さあて、そろそろ終いにしようか」
放り投げられた日輪刀を取るとその刃は月明かりに照らされ様々な色を灯す
何処かで見たような色合いに白い羽織が過った
「あの女がじきに戻ってくる…いやあ、人斬りさんは怖いねえ」
「……お前は、彼奴をよく知っているのか」
ここにきて初めて冨岡が言葉を発したことに驚いたのか新月はまんまると目を開く
だが、次には口端を三日月のように吊り上げ目を細めた
「知ってるも何も、あの女。鬼の中では有名なのさ。喰っても喰っても必ず同じ容姿で現れる鬼に嫌われた女」
「同じ…」
ふと、脳裏に蘇るのは冨岡とAが初めて出会った日のことだった
竈門兄妹との一件、ではない。あの時、冨岡からしてみれば彼女との出会いは再会だったのだ
遠い、幼い自分が錆兎と共に初めて見た師範以外の鬼狩り
_あんさんは良い鬼狩りになれる。きっと
「まあ、お前さんには関係ない話だが」
鋭い斬撃が飛んでき受け流し距離を詰めれば下方から飛んでくる筈のない刃こぼれした刀が突き跳ねた
鬼は腕の間接を外し、瞬時に戻すことであり得ない方向から奇襲を仕掛けたのだ
右足で蹴り軌道を変えその腕を切り落とせば地面からくん、と足を引かれた
影が動きを封じるために絡み付き逃がさない
本能が察知する、このままではまずい。と
一瞬の隙が命取りになる
鬼の刀が胴を貫くより先に、それは現れた
『お待たせした。冨岡はん』
鬼をも凌駕する速さで間に入ると女は桜の花弁と共に躍り立っていた
風に乗り、踊るのは藤のみならず、桜もまた鮮やかな朱を帯びて咲き狂う
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時