急務 ページ26
「報告ゥ!!巡桜!首ナシ死体ノ被害発見!!」
二人の間に流れる不穏な空気を壊すよう突如鴉が窓から声高々に飛び込んできた
『……ようやっと姿を現したかい』
慌ただしい鴉とは相反してAは動じることなく肩に停まる鴉の頭を撫で付ける
けれども、冷静なのは違いないが声音から滲んでいる形容しがたい感情は背筋をも凍らす
殺気にも近いそれを向けられていない冨岡でさえ血の気が引くほどのモノ
首なし死体の主犯とは因縁を持っているのは明白であった
『幸村はんにはすぐに屋敷に戻るよう。森に人を近づけてはなりまへん』
翼を広げ羽ばたいていった鴉を横目に机に立て掛けていた番傘を掴むと女は動きを止めた
つい先刻までの冷たさは何処に。申し訳なさそうに眉を下げている
『慌ただしゅうしてもうてすんまへんなあ。そういう訳やから、冨岡はんもうちの管轄内の森には入らんように』
「…ああ」
『それなら、おおきに』
横引きの扉を開けて外へと駆けて行く女の足音は不思議と鳴らない
しなり、しなりと猫足を意識していたのか。その割には速い
やはりよく掴めない女だと冨岡が汁を啜り昼餉を腹へ流し込んでいると程無くして店主が煙管片手に表から戻ってきた
「? なんだ、兄さんだけか」
「急務で店を出ていった」
「ああ……またか。この頃休む暇もなさそうだなあいつ」
煙管を着物の裾に仕舞うと店主は慣れた手つきで膳を下げていく
鴉の羽が一枚、机上に置かれているのを摘まむと苦笑を浮かべながらも店主は文句の一つ、言いやしない
それほど気を許しているのだろうか。
確かに、人の良さそうな女だとは思うがあのどうにも桜の花弁のような掴めない人柄は冨岡としては心を許せそうにもない
「お兄さんはあんまりあいつの事が得意じゃなさそうだな」
不意に羽と共に置かれた勘定を拾い上げる店主の確信めいた言葉に息を詰まらせた
違う、とすぐに否定できないのは図星だからだ
「誰だってそうさ。あいつを形成する全てが幻術かって困惑して疑う」
自分と違うモノを人は恐れ、拒む
それは人間の本質そのもので簡単には変えられない
「けど、あのお人好しなから垣間見える苦しみやら絶望やらを見ちまったらこっちが距離を詰めちまうんだよ。いつか消えちまうんじゃないかってね」
あんたもいつか絆されちまうさ。あのお人好しにな
と笑う店主の声を聞きつつ冨岡は目の前に引かれた椅子をぼんやりと見つめていた
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時