嘘つきの私と最後の一年六時間目 (ページ42)

今日:5 hit、昨日:4 hit、合計:99,447 hit

彼女の時間・五時間目ページ42

どこかの漫画やアニメみたいな生まれから絶望のどん底な人生ってわけでもなかった

父さんは軍人として家に帰ることは少なかったが、不器用ながらに愛情を注いでくれた。母さんは自分の育った孤児院に影響を受け、新しく自分で孤児院を経営する優しい人だった

そんな二人が私を含め施設の皆も好きだった。誰かの為に日々を生き抜く二人に確かな愛情を抱いていた

だからだろうか、母さんが倒れた時。誰もが藁にも縋る気持ちでこう願っていた

何でもするから、母さんを助けてほしいって

『母さんが倒れた原因は心臓の病だったから完全に治癒するのは難しくてね。どうすればいいのか考えた末、見つけちゃったの』

「見つけた?」

『とある論文…研究成果の報告書、とも言えるかな。殺せんせーは心当たりあると思うけど』

それまで黙って話に聞き入っていた殺せんせーが思考を逡巡させ、やがて何かを思いついた素振りを見せる

「…そういうことですか」

「殺せんせー、何か知ってるの?」

「死神と呼ばれていた頃、触手細胞の前身とも呼べる細胞の論文を目にしたことがあります。その著者は、天宮雫」

『うん。私のお母さんの名前』

施設を経営する前は研究に勤しむ科学者だった母さんの論文は途中で打ち切られていたけれど、切られるのが勿体ないほどの内容だった

細胞の活性化を図り、人体の再生能力を引き上げる。そんな夢のような話に食いつくほど、父さんには余裕もなかった

初めは未知の領域に手も足も出なかったようだけど、時間を経て少しずつ着実に研究を引き継ぐことに彼は成功した。愛する人の為ならどんなことでもやる人だ、それぐらいはやってのける

モルモットを使った実験を繰り返していたけれど効果は現れず、日に日に容体が悪くなる母さんに焦りを感じたのか彼は禁忌に手を伸ばした

『施設にいたのは災害で親を亡くした子供を始め身寄りのない子ばかりだった。人体実験を行おうが誰も気がつかなかったの』

「それが…こいつら、なのか?」

殺せんせーにラッピングされた生物は最早原型は残っていない。それでも私にとってはみんな一緒に過ごしてきた兄弟たちだ、家族だった

木村くんの問いに私はへらりと笑いながら言葉を続けた

『5人も消えてから、私は漸く父さんが人体実験をしていることに気がついた。もっと早ければ間に合ったかもしれないのにね』

もう言葉も話せない家族たちが私をじっと見つめ声をあげる。その言葉には何の意味も意識もなくて、それがただ虚しい