嘘つきの私と最後の一年六時間目 (ページ35)

今日:6 hit、昨日:4 hit、合計:99,448 hit

彼女の時間・四時間目ページ35

水の勢いが止むこともなく、とうとう己の足上へと到達しそうになった状況に冷や汗が止まらない

膨張した触手では動きが落ちる。故に対峙する生徒の猛攻に反撃を打つ一手を与えられるチャンスも生まれず危険だ

「天宮さん……君にとってE組は、未だ本心を語るには十分な場所ではないと考えていますか」

体に纏わりつく溶けた生物を篩い落とし振り上げられた打撃を受け止める
受け止めた反動で一本触手を奪われた代わりに彼女の腕を掴むことに成功した

それでも天宮さんは動揺するまでもなく、掴まれた腕に力を込める

『愚問を。私には語る心がありません。だから平気で嘘を吐ける、皆を裏切って貴方を殺せる』

「いいえ、それこそ嘘です」

背中に伸びる一本の触手が煩わしいと私の頭を掴むと躊躇もなく顔面を水へ浸す
咄嗟に体をひねり拘束を逃れようと水中を泳ぐも重たい体ではすぐに捕まり天井へ背中を押しつけられた

押しつけられた箇所が溶ける感覚がいやでも伝わり本能がマズイと警鐘を脳内で鳴らす
エネルギーを放出しようとしても、この生徒は茅野さんと違い触手で守備の動きをとらない

なぜこうも、己の生徒は命を軽々しく見ているのか。それが自分という存在のせいだと思うと説教をすることもできず

『…何が嘘なの?現に私は、この場所を皆に特定させ貴方を罠に嵌めた』

「心がない、平気で嘘を吐ける、このどれもが嘘偽りです」

冷ややかな眼差しとは裏腹に対先生物質の塗られた天井に押しつける触手が微かに力が増した

既に対敵してからどれほどの時間が経ったか不明ではあるが、今日初めて見せた天宮さんの生徒としての態度に導かねば、そう強く決意する

「確かに何度も嘘を重ね生徒たちを騙していたかもしれません。ですが、そこに罪悪感が無かったとは言わせません。だから君は今」

ひどく苦しそうな顔をしている。

人一倍殺すことの意味を知っていたからこそ、ずっと悩んでいたのだと思う。その苦しみに気づけなかった己の愚かさに後悔は止まない

「………天宮さん。君個人が私を殺したいと挑んでくるなら、先生は大歓迎です。しかし、君の意志が無い暗殺は許しません」

『…………』

「何をそんなに急いで、あまつさえ人の言いなりになり先生を狙ったのか。それをこのクラスに語ることができないと今も思いますか?」

見上げていただけの緋が隠れるように下を向き顔を俯かせた彼女は何を思うのか
遠くから響く幾つもの足音にその答えを待った