嘘つきの私と最後の一年 六時間目

期末の時間・二時間目 ページ4

『私は浅野くんが好きだよ』

後ろから何人かが驚く気配を感じながらそれでも浅野くんを見上げる
言われた本人は意図が掴めているのか驚きもせず言葉を待つ

『でもそれは、好敵手としての浅野くんが好きなんだって思う。この距離感が一番落ち着く』

「……ああ」

『…あの時の言葉に嘘はない。私の本心からの返事だったけど、それじゃあ曖昧になっちゃうもんね』

だからちゃんと言うよ。浅野くん

『天宮Aに好きって言ってくれて嬉しかった。けど、その気持ちには答えられない』

初めて対等な立場で、私という人物を見てくれたのは彼だ

この数日の間で導きだした答えが最良なのかは分からない
だから考えるのは止めて思った事を口にする

『ごめん、でもありがとう。好きになってくれて』

一年越しの想いにようやっと伝えられた感謝
人に想われてもそれが伝えられることはごく稀である

想いを伝えるだけでどれだけの勇気がいるのか、想像するだけでも大変なのは分かっている

精一杯の想いを込めて笑みを深める
嘘偽りない自然なそれに彼が慈しみを持って笑った

初めて、私が彼を笑わせられた唯一の出来事であった

「まさか、感謝されるなんてね」

『え、おかしかった?』

「いいや。君らしくて、改めて思ったよ
君には敵わないって」

こちらこそありがとう。穏やかな声音に隠された震えには気づかないふりをして、去っていく彼の背中を眺める

一緒にいた期間は一年くらいだったけど、浅野くんからは色々な事を学んだ

今も、また1つ彼のおかげで分かったことだってある

「あの時ってなに、俺知らないんだけど」

「まあまあ、カルマも落ち着けよ」

「いつ告白されてたか教えてくれても良かったじゃん?このこの」

「………」

「イトナ、お前何か知ってんな」

「知らないな」

私の存在を確立してくれる人は彼だけじゃなかったこと
私の側に仲間はいてくれたんだってこと

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